終幕

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 青白い剣の夢が、ただ少年の過去を映す夢に戻っていた後に。  少年にある夢を送ってきたのが、いったい誰なのか、夢の最後まで少年にわかることはなかった。 ――……やっと俺も……心置きなく、悪魔になれそうだ。  以前に誰かが、少年に似ていると言った者。白銀の髪を持つ「魔」が、かつて自らを封じられていた祭壇の前に立っていた。 ――何をしても、これだけは……俺がやらなきゃな……。  困ったように微笑みながら、「魔」は硬くその意志を定めている。  「魔」がかつて消えてしまった日。己が妹をかばって命を落とした時よりも大人びた姿で、その祭壇まで帰ってきていた。  そして祭壇の真上に浮かぶ、まるで小さな太陽のように強い光を放つ球体に、「魔」は強く手を差し伸べる。  光に包まれた「魔」が、その本来の顔で満足そうに笑ったことに、銀色の髪の少年は安堵して夢を閉じる。 +++++  青闇の青年――黒の守護者が、行方不明になったという。  ユーオンの自宅を訪ねてきた吸血姫、銀色の髪で赤い目へと戻った相手が、両手を祈るように握り締めながら語った。 「せっかくソール君から解放されたと思ったら、シア君てば、一人でどこかに行っちゃったんです~。水華ちゃんだけは何とか、ちゃんと火の島には送ってくれたみたいですけどぉ……」 「……」  心配ですぅ、と、軽い口調で憂いげな顔の吸血姫は、これまでの無表情は見る影もない。喋ることも表情を変えることもできなかった躰を、今ではすっかり我が物顔に使っていた。 「あ、ちなみに私ミカランは、当面レイスゥさんの日常代理をすることが決まったのです! レイスゥさんは基本命を節約して引きこもって寝るということで、私は遠慮なくこのカラダで、先生に突撃しろとのことです!」 「……正気の沙汰じゃないな、ホントに」  帰ったばかりの玄関先で吸血姫を出迎えながら、強く呆れるユーオンに、吸血姫が照れ臭そうに笑う。 「ちょっと前まで、皆さんのことも苛めてホントにごめんなさぁい。私も生き残るために必死だったんですー」 「……それは多分、ミズカに言ってもらった方がいい」  吸血姫によって自らの存続に関わる魔法杖を折られ、その後躯体が不安定になった者。それを思い浮かべながら、ユーオンは憮然と呟いていた。  それで……とユーオンは、気になっていたことを口にする。 「『黄輝の宝珠』は結局……封印から解放されたのか?」  ぎくりと肩をすくめる吸血姫に、淡々と先を続ける。 「あの神父がそれをやり遂げたんだろ? 魔王の残党でなく……水華をいつか、黄の守護者にさせてやるために」 「……はうぅ。そこまでばれていたのですか、あな恐ろしや」 「でも水華が消えたから、あの吸血鬼が宝珠を持ち逃げした、と。ホントに……完全に消え損だよな、水華も神父も」  大きく溜息をついたユーオンの背後から、ひょこっと――  茜色の髪を鎖骨までたらし、女の子らしい大人しげな上着を羽織る、紅い目の少女が突然現れていた。 「あれれぇ。それなら私に宝珠、くれれば良かったのにねー。ミラの物真似くらいなら私も、いつでもできるけどなぁ?」
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