_月明かりの下で -side C-

3/9
前へ
/150ページ
次へ
 この田舎の村に少年は、母への謎な手紙を見て、母の代わりに来た。その後に紆余曲折あり、つい先程、胸を背後から大鎌で貫かれてしまった。 ――何か、言い残すことはある?  ないわけあるか、ふざけんな。振り返って見えたヒト殺しの姿は、無骨な赤い鎧を身につける、あどけない少女の人形だった。  人形なので気配に気付けなかったのだろうが、そんなのあり? と思ったのは言うまでもない。  殺戮人形のあまりに的確な剪断は、少年の体を一瞬で滅ぼしてしまった。一言も喋れず倒れ込んで、手紙の主に連れていかれた。あくまで少年の体だけは。  それならここにいる少年は、霊魂か何かなのだろうか。銀色の髪に赤い目、父親とそっくりな顔で、生前同様の姿をしている自身を訝しまずにはいられない。  自称天使は冷静に、少年の現状を説明していく。 「今の君は、シルファちゃんの奇跡の笛が起こした幻。世界を元に戻すカギはそうして、シルファちゃんが握ってるの」 「へ? シーが、何で?」  とても意外な名前が出てきて、少年は思わず面食らった。確かにその名前の娘は、家に代々伝わるという不思議な笛を持っていて、月明かりの下でそれを吹けば、一日一度だけ奇跡を起こすことができる。  この田舎村にも実は一緒に連れてきていた。いつもシルファは家に居づらいと言っていたからだ。 「あんた、まさか――……シーを巻き込むつもりか?」  この場所が危ないとわかった時点で、少年はシルファを一人で逃げさせていた。それも無事に帰れたのかが心配で、今更にはっとした少年だった。  自称天使が少しだけ、感情を見せて笑った。本当の心は何処か哀しそうに。 「ええ。アースフィーユ――あたしの名前をあげたあの子のために、シルファちゃんは必要なのよ」  それはシルファの養母だという。実の母よりそちらが大事だと悪びれずに言う。  どうしてこんなに、今夜の空はどろどろしているのだろう。そう思わずにはいられない、嘘みたいに真っ赤な月夜のことだった――
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加