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次元と次元の狭間。
時間も、方向も、縦や横さえも存在しない無の地点に、一つの黒渦が発生する。
初めは小さく、それこそ何の影響もなく自然消滅を待つばかりの現象だった。
が、それは無の場所に留まり続けた。
やがて渦は大きくなり、複数に分裂を繰り返す。
最初の渦はより巨大に、それこそブラックホールのような強大な引力を持ってして、決して破られることのない次元の壁をも飲み込んでいく。
その変化は急激に、しかし誰にも気付かれることなくひっそりと。
……無空間に取り残された、分裂した渦。
そのうち一つが、やがて脈動を始める。
うねりを上げ、形状を徐々に変化させていく。
やがてそれは、人型となった。
ただしそれは、背に八枚の漆黒の翼を背負う異形。
宵闇の黒い髪の少年が、ゆっくりと瞼を開き、禍々しい紫の瞳が無の空間を捉えた。
「此処は……どこだ? 我は……今まで何をしていたのだ……」
きょろきょろと瞳が動き、必死で現状の把握に努めているようだ。
やがて拳を握ったり開いたり、各部の関節を鳴らしたりなど体の感覚を確かめていく作業の末、異形の少年は己の名と肩書き、そして野望を思い出す。
「そうか……そうだ! 我が名はカイゼラ! 大魔王……カイゼラであるッ!」
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