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その高らかな声は、無の空間では決して反響することなく、誰の耳にも届かない。
ただ、それでも気分は悪くないようで、カイゼラは首をコキコキと鳴らしつつ、一際大きな渦を見据える。
「ふむ……此処がどのような場所であるかは、未だにわからぬままであるが、留まっていても無意味であるということは明白。そして、我の直観に拠るならば、あの渦に何かしらの鍵がある」
事実、カイゼラのその直観は正しい。
彼のこの判断が、後の世界を大きく混乱を招くことになっていくことになるからだ。
「ともあれ、此の場所からの脱出を図らねばならぬ。行く宛もなし……あの渦に頼るしかあるまい」
腕を組み、ひとり納得したように呟くと、八枚翼を静かに羽撃かせ、ゆっくりと渦の中心部に向かっていく。
渦の真ん中は、底の見えぬ深遠の黒。
少し手を入れてみると、凄まじい力でカイゼラを吸い込まんとしているのが感じられた。
「ほう……! 面白い! ならば見せて貰おうか、その闇の深奥には何が在るのかを! この我を導いてみせよ!」
にぃ、と狂喜的に彼の口角は吊り上がる。
歪んだ笑みと台詞を無の空間に残して、彼は引力に身を任せる。
やがてカイゼラの体は完全に渦へと飲まれ、一つの巨大な渦と、複数の小さな渦が点々とするだけの、静寂が無に訪れた。
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