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「いってきまーすっ!」
雲一つない、澄み切った青い空とそよぐ風が心地良いある休日の昼下がり。
ふわふわとした質感のクリーム色の髪と、それと同色の眼を持つ十歳の少女フィアは、元気に家を飛び出した。
つい一週間ほど前に、母親に買って貰った新しい洋服を身に纏い、友人たちとの待ち合わせ場所に小走りで向かう。
『フィア……約束の時間までは、まだ随分と余裕があります。もう少しゆっくり向かわれては如何でしょう』
フィアの心の中で、もう一人の少女……フィナが語り掛ける。
とある事件により後天的に生まれた人格であるフィナは、フィアにとって大切な友人であり、家族であり、何よりももう一人の自分でもあった。
『えっへへー。いいお天気だから、いてもたってもいられなくって、つい……』
『そのお気持ちはお察し致しますが、あまり浮き足立っては注意力が散漫になり、転倒等の危険性を孕みます。落ち着いて、ゆっくりと向かうことをお薦め致します』
『うーん……わかった。言われてみれば、確かにそうかも……フィナの言うとおりにするよ!』
こうして、心の中で会話をすることは、彼女たちにとっては何一つ不思議なことはない、日常の一ページ。
フィアがいて、フィナがいる。
それはお互いにとって、ごくごく当たり前のことであり、最も大切なことだ。
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