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「桐生奏介さん、第一診察室にお入りください」
看護師のコールと共に、
俺は待合室のソファーから立ち上がると
ゆっくりと、その白い扉を開いた。
俺、桐生奏介(きりゅう そうすけ)は
今、仲間である翔琉(かける)の勤務先である病院の
心療内科の診察室へと来ていた。
「桐生さん、
この二週間はどうでしたか?」
主治医である担当医が、
何時もと変わりない会話を始める。
「別に。
何時もと変わりません」
「睡眠はどうですか?」
「眠っていてもすぐに、
あの日の夢を見て飛び起きます」
「焦りは禁物ですよ。
まだまだ桐生さんの心も休息が必要ですから。
お薬も引き続き、出しておきましょう」
ただやり過ごしたい時間。
忘れてしまいたい過去を
何度も何度も、引きづり出すように
思い返させる時間。
主治医と話しながらも、
俺の体はフラッシュバックの前兆か、
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の前触れか
指先が自分ではコントロール出来ないくらいに
ブルブルと勝手に震え始める。
そんな震えを強引に押しとどめるように、
逆側の手で、その指先をきつく握りしめる。
「手の震え、今も続いていますね。
大丈夫ですよ。
ゆっくりと、ゆっくりと歩いていきましょうね」
そう言うと、担当医は
デスクのPCを使って、処方箋などの手続きを取りおえると
次回の予約日を告げて、
手の震えが、ようやく落ち着き始めた俺を
診察室から見送った。
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