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「奏介、わざわざ有難う」
迎えに行った桜通りの駅前で、
成実を見つけると、成実はお礼をいって
俺の車へと乗り込んできた。
美空が不在の助手席。
その場所に乗り込んできた成実に
チクリと痛みを感じる。
「あぁ、車内の音楽『K』じゃん。
そうそう、晴貴もよく聞いてた聞いてた。
晴貴ってさ、Kのボーカルの斎(いつき)の歌い方
意識してそうだったよね」
そんな風に、
助手席で切り出す成実。
俺の傷を平気で抉ってくる
親友の彼女。
だけど成実に、その自覚は一切ない。
俺が逃げようとしているその時間に、
成実もまた別の形で、必死に縋っている
そんな成実の心を感じとれるから、
俺もまた、成実を突き放すなんて出来ない。
「ねぇ、Kじゃなくて
アイツの声、聴かせてよ。
私、持ち歩いてるんだ。
繋いでもいい?」
そう言うと、俺が答えるのを待つまでもなくて
成実は手慣れた手つきで、
ナビを操作して、
俺たちのバンドのNAKED BLUEの
サウンドを再生始めた。
助手席で、晴貴の歌声に合わせて
歌い始める成実。
そうやって歌い続ける成実が、
必死に自分を支えようとしてるのが伝わるから
それを止めることなんて出来ない。
だけど俺は……
その時間はあまりにも苦痛すぎて、
辛すぎた。
成実の悲しむ姿を現実に突きつけられる。
晴貴が生きてれば……。
デビューが決まって、
勘当同然だった自宅に、ケジメつけに帰るって
帰っていった実家。
あの日、俺がアイツを送り出さなければ
アイツかこんな目に
合うことはなかったかもしれない。
道路が寸断され、その場所に立ち入るのが
時間がかかりすぎた。
歩き続けて、船を乗り継いで
ようやく辿りついたその場所。
晴貴の姿は見つからなくて、
警察や消防にも協力を頼んだ。
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