プロローグ

3/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
――季節は夏。世間的には『お盆』と呼ばれる時期である。 しかもお盆休みの後半という事もあり、もうすぐ長い休みが終わってしまう事がつらくてつらくて仕方がない者も出てくるだろう。いや、学生はまだか。 そんな事を考えながら、俺は惨状に目を向ける。 ――そう。刑事にお盆休みのおの字もない。 事件が起これば出向く。それが刑事である。多分。 で、目の前の惨状。血だらけの少女の死体がある。 しかも強い恨みを感じるが如く、幾度も刺された跡がある。 その近くには包丁。彼女はこれで刺されたわけだ。 そして少し離れた所で、40代半ばの女性が事情聴衆を受けている。おそらく被害者の母親だろう。泣きながら何かを話している。その近くでは、被害者の父親と思われる男性も別の刑事から事情聴衆をされている。 慌ただしい事件現場。俺は一つため息をついた。 通報を受けたのは数十分前。丁度お昼の休憩時間中だった時だ。 しかもその通報は、今事情聴衆を受けている二人のどちらからのものでもなかった。 ――犯人からだったのだ。 しかも、駆けつけてみると被害者とさほど歳が離れていない少女が、血まみれで携帯を持ったまま立っていたのだ。 その少女はその時に別の刑事に連れられて行ったのだが、俺は未だにそれが信じられなかった。 あとから聞いた話によると、彼女はどうやら被害者の『妹』だそうだ。 『妹』が『姉』を『殺した』。確かにありえない話ではなかった。 だが、そうなるとその妹は、包丁で幾度も刺して殺すほどの恨みを姉に持っていたということになる。 一体、何が彼女をそうさせてしまったのか? 姉に対する嫉妬? 金銭トラブル? 考えられる要素はいっぱいあった。だがどれもイマイチピンと来ない。 ……俺が一人っ子だったからだろうか? いずれにせよ、あの『妹』にもっと話を聞かなければならない。その必要がある。 「俺署に戻るからあと頼むわ」 事情聴衆をしていた刑事にそう告げ、俺は署に戻った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!