FAIRY LAND 最終章

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「仕方無い。今は休みな。」 澪都さんの掌が僕の額に触れる。温もりが伝わってくる。それは今まで欲しかった温もり。 「うん………おやすみ、なさい。」 僕は静かに瞼を閉じた。どこからかオルゴールの音が聞こえて来る。それが僕達を包み込み、安堵の気持ちを与えてくれた。 「その実、お前の身体には百を超える回路と万を超える魔力量が存在する。そして、組織によって造り出された命。」 その言葉の意味は僕には分からない。 ホムンクルス(人工生命体)人間の技術の結晶、回路や魔力量は桁違いで見た目は普通の人間と変わりはない。でも、暴走すれば世界を破壊出来る程の力を持つ。 「俺も組織のメンバーだったんだ。いくら欠陥品だと言われても、お前は生きているんだから、助けなきゃと思った。道中は俺の力と共鳴してバランスが取れていた。しかし、それは破壊兵器が二つ肩を並べて歩いているのと同じ事で危険には変わりなかった。」 俺でも春澪の魔力量には身体が耐える事が出来ずに内側から破壊される。精神を埋め込んだ理由は魔力を制御する為だ。しかし、それは200kmを超える新幹線を正面から抑え付けているのと同じ、それは必ず限界が来ると言う事だ。春澪自身が魔力をコントロール出来れば問題無いのだが、それまでは俺がストッパーの代役となる。 俺の限界が早いか、春澪がコントロールするのが早いか、二つに一つだが、俺の限界の方が早いかもしれない。 「安心しろ。お前一人で死ぬ訳じゃない。春澪が暴走すれば俺も内側から………破壊される。」 まだ幼い顔立ちのまま死を与えてはいけない。こちらの回路は二十七、限界魔力量は四千を超えると自我が保てるか不明。 「ったく、自分の命を犠牲にする………また皆に怒られるかもしれないけど、俺は間違ってないと言えるし、後悔なんかも絶対にしない。こいつは血は違うけど、妹のような存在、だから、死なせる訳にはいかない。」 俺に出来るのは雪野さんにやった魔力の移動、向こうの魔力をこちらの身体に移植する。それが俺に出来る唯一の方法。 「大丈夫、お前の命は必ず守る………から。」 そこまで言うと澪都も静かに瞼を閉じた。 これは誰の夢だろうか? 大きい背中を追い続ける。どこまでも、どこまでも………雨や風の時もその人の背中を目指して、それは僕に優しくしてくれた初めての人、だから嬉しかった。子供心に残っていたのはその人の後ろ姿だけだった。
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