FAIRY LAND 最終章

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その人に追い付く為に無我夢中で走り続けた。僕の事を人として見てくれて、優しさや温もりを与えてくれた人。 それが子供心に嬉しかった。 それが子供心に残る思い出となった。 それが子供心に希望を与えてくれた。 それが子供心に勇気を与えてくれた。 そして、それが子供心に恋と言うモノを教えてくれた。 会えない日々がとても寂しかった。僕の時間は止まり、また孤独で辛い日を過ごした。そのままだったら、今の僕はどうなっていたか分からない。だから、僕は大切な人に会う為にこっちにやって来たのだと………。 「これは、春澪の記憶?」 記憶など、存在しない筈のモノ、無論、夢を見る行為も有り得ない。 「アンタは今まで、ずっと苦しがっていた。希望は絶望に、光は闇に消えた。最初の時のように毎日毎日、苦しみに耐えて来た。だから、こっちにやって来た………と?」 それしか出来ないと思ったから、あのまま、この身が崩壊するよりも孤独で居る方が辛かったから。 「―――春澪。」 だから、僕は海を越えて来た。かつて絶望していた僕に希望を与えてくれた澪都と言う人を探す為に………。 この世界は澪都と春澪の造り上げた世界、二人の心が通じるが故に。 「分かった。あの時は俺が悪かった。春澪はこっちで面倒見る。」 俺にはそれしか出来ない。俺自身の暴走もゼロではない。故に危険な兵器は二つある事に変わりはない。だから、せめてバラバラで居て一人で死ぬのなら大切な人と一緒が良いと言う春澪の希望と言う事だ。 「ありがとう、澪都さん。僕………寂しかったんだから、責任取ってよね。」 「分かった分かった。お前の命は預かるし、正直、お前を残して帰国した時は後悔したからな。だから、今からでも遅くないなら埋め合わせはする。」 夢から強制的に覚醒させられる。膝枕で眠っている春澪は何となく笑っているかのように見えた。それは澪都の過去に癒された事がある無邪気な笑顔。 「今までずっと、一人で我慢して来た訳か………悪かったな。」 俺は春澪の髪に触れる。この感触も温もりも、吐息も心臓の鼓動も人間と変わりなかった。だから、愛しく感じた。 出生が最悪なのに、春澪は俺に満面の笑みを浮かべてくる。真実を知った筈なのに、それを受け入れて前進している。 それは澪都が認める程の前向きさだった。 「強いよ。春澪は俺よりも………心が強い。」 それは紛れも無い真実だった。
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