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「澪、都………さん?」
小さな声で春澪は尋ねるように呟いた。
「何だ?今起きたのか、お寝坊さん。」
俺は変わらずに春澪の起床を温かく迎える。
それに気付かなかったのか、空は青空から茜色に変わっていた。
「僕、どうしてたの?」
「気にするな。疲れが出たんだろう。学校を案内している途中で倒れたんだって………。」
僕には、その部分の記憶が曖昧だった。誰かが優しく抱き締めてくれたのは覚えているけど、それ以外はサッパリだった。
「起きれそうか?もう夕暮れだ。家に帰らないと皆に心配を掛ける。」
身体を動かす………が、鉛のように重く、感触が無かった為かバランスを崩す。
「おっ………と、まだ無理は出来ないな。」
と、澪都さんは僕に背中を向けた。
「その様子じゃ家に帰るのは無理だろ?だから、背中に乗れ。」
僕は何とか、澪都さんの背中に抱き付いた。全てを預けると、澪都さんは、いとも簡単に立ち上がり歩き始める。
「重く、ないですか………?」
それが何となく不安だった。
「いや、春澪は軽いから安心しろ。家まで距離があるから、少し眠ってな。」
澪都さんは無言で歩き続ける。背中に居ると澪都さんの熱や呼吸、心臓の鼓動が聞こえて来る。
「澪都さん………。」
「………んっ?」
「うぅん………何でもない。」
「そっか………。」
それだけの会話、意味のあるとは思えない会話が僕には嬉しかった。
「澪都さん、独り言なんで気にしないでくださいね。」
それなら返事をする必要も無い。俺はリズム通りに歩を進める。
「眠っている時、夢を見ました………何かの研究所みたいな所で四、五人くらいの白衣を着た研究員の中に澪都さんに似ている人が居て、何かの溶液が入ったガラスケースの中を見て泣いていたんです。」
春澪は話を続ける。だが、澪都はあまり聞きたくない話だった。研究員は確かに澪都でガラスケースの中に居たのは欠陥品と言われた春澪だったからだ。
「それで、その研究員の人はガラスケースの中の何かにずっと謝っていました。ごめんなさいをずっと、他の研究員が帰った後も、日が変わってもずっと………。」
それが俺だった。何も出来ない無力さに腹が立った。たった一人の人間でさえも救えなかった事に………自分を責め続けた。
「なぁ、話に水を差すみたいで嫌なんだが、もう家だぞ。」
澪都さんの声で僕は現実に戻る。
「それと今の話は皆には内緒にしてくれ………。」
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