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「それにしても感覚ってのは自然と身につく物なんだな。最初はドタバタだったけど、気が付いたら普通に出来てるからなぁ。」
理事長室で佳苗が淹れてくれたお茶を啜りながら、書類に目を通して行く澪都の姿は他の理事長と比べても変わりは無い。
「だから、そんなに緊張すんなって………強張った顔をし過ぎると周りから怪しく思われるぞ。」
ソファーに座りながら、前に出されたお茶にも手を付けない春澪、それを見た澪都は―――。
「ほらほらっ、ルーキーは笑顔で行かないと……………って、むにぃ~。」
「!!!!」
春澪の頬を摘んで横に引っ張る。それが春澪の緊張を取ったかどうかは分からないが、澪都の手は撥ね除けられた。
「な、何するんですか澪都さん!!」
「何………って、春澪の緊張を和らげようとしただけだぞ?」
「ぼ、僕は緊張なんかしてないです。さっきから少し考え事をしてたんです………。」
「んっ………悩みか?」
「いいえ、大丈夫です。」
なら、良いが………そろそろ始業式か。なら別館に行かなければ………。
と、言っても少しスピーチして連絡事項を言う程度なので楽と言えば楽だ。
「それでは、理事長先生お願いします。」
呼ばれて教壇に向かう。しかし、ここで難しい話をした記憶は無い。いつもお気楽に言うので、生徒からすると親しみ易いのだろう。
「んで始業式が始まりましたが、え~、特にこれと言った連絡事項はありません。暑くなって来てますから怪我しないように、と夏風邪には注意してくださいね。あっ………それで今日は転校生が来ますので楽しみにしててください。」
と、こんなのを十年間続けていたのだが、仕事は真面目にキッチリとやってるので何かを言われる事は無い。
「え~っと、授業の説明や課題、闇討ちなどは、いつでも歓迎するので、どんどん来ると良い。後、変なアピールは微妙ながらチェックするし、手作り弁当は五個が限界なので………良し、以上。」
「佳苗さん、澪都さんっていつもあんな感じなんですか?」
まぁ、春澪は学校での澪都を見たの初めてだったからな。家の中と余り変わってなかったのが意外だったのだろう。
「そうですよ。澪都様はいつもあんな感じです。子供みたいで無邪気に遊んだりしますけど、お仕事はシッカリとやりますから安心なんです。澪都様からしたら、こっちには遊びに来ていると言う感覚だと思いますよ。」
やっぱり澪都さんのイメージは変わらなかった。
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