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「佳苗、この資料と書類は終わったから職員室の先生達に届けてくれ。」
今思えば、慣れた物だ。最初に比べたら見違える程に仕事のスピードが上がったし、不安にならない程になった。
「はい、分かりました。澪都様。」
書類を持って理事長室を出ようとする佳苗の背中では澪都が独り言のように呟いた。
「春澪も頑張ってるよな………。」
「澪都様は春澪ちゃんには甘いのですね。」
「いんや………アイツは出生も今までの人生も最悪だった。そのプロジェクトには俺も参加していたんでな、少し感情が入っちまった。」
「………………………………………………………………………………ホムンクルス、ですよね?」
佳苗の言葉には驚かない。元より佳苗や凛は心を詠む事に関しては鋭いからだ。
「アイツは研究で造られた命、欠陥品と言われ、処分される前に俺がプロジェクトから外れて逃がした―――純粋で何もしてないのに、こっちの都合で処分して、また造る………そんな地獄を何度も見てきた。世界が平和になると言われ、それを信じ続けて来た。」
澪都様の声は悔やんでいた。自分自身が許せないとも聞こえる………そんな中、澪都様は続けた。
「今まで、何人もの命を見捨てて来た。詫びても、泣いても、苦しんでも、見捨てて来た。でも、春澪を助けた事は良かったと信じられる。アイツの魔力が暴走すれば世界は一瞬で炎に包まれる。その為に俺は―――。」
「また、自分の命を犠牲にするつもりなのですか?前に雪野さんの魔力を移植した時に死にかけたのに、また―――澪都様は自分の命を何だと!!」
「確かに自分の命を犠牲にする事は怖い。でも、何もしないで他の人が苦しむのを見るのはもっと怖いんだ。それなら何かをしてやれば良かった、と後悔するのは御免だ。だから、俺のやってる事は間違えてないと信じたい。」
澪都の言葉に佳苗は息を呑んだ。しかし、澪都がやろうとしている事を怒る訳では無く、澪都が自分一人で背負うのを佳苗は怒っていたのだ。
「なら………一人で苦しまないでください。澪都様には皆さんが居ます。必ず力になってくれますし、春澪ちゃんも喜びますから………。」
「!!!!!!」
自分一人で背負う?
俺はそんな事をしていたのだろうか?
ただ、皆に笑っていて欲しい………と願い、叶えて来た。
「それが一人で背負っているのです。皆さんは澪都様が居るから今があるのです。話せば必ず力になってくれます。」
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