FAIRY LAND SS

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「………ゼロ、様?」 「後ろに乗れ。アイツ等に追い付くぞ。」 漆黒のバイクに乗ってエンジンを駆ける。精巧なイメージによって造られた事で一瞬見ただけでは分からない。 茜も自然と身体が動いた。漆黒のバイクに乗り、澪都の身体にシッカリと捕まる。 そして、重く感じられるエンジンを唸らせて、夜の美月町を疾走する。 夜なのに寒く感じなかった。それは澪都の背中が温かかったからなのかも知れないが、風邪を引くような事は無さそうだった。 「ゼロ様、やはり皆さんと一緒に居たいのですね………。」 「確かにそれはあるけどさ、違う部屋に俺達が居たら、どんなリアクションするか楽しみなんだよなぁ。」 それは単なる悪戯心、少し試してみたくなっただけ、でも、ちゃんとした理由もあったりする。 「それにさ、茜と旅行に行った事無かっただろ?だから茜との初めての旅行って事で、ね。」 聞こえてくる澪都の言葉はとても穏やかだった。その言葉の真意は分からないが、皆にも会いたいし、茜とお出かけをしたいと聞こえたような気がした。 「ゼロ様………正直じゃないのですね。」 「まあな、俺は捻くれ者だから素直な感想は言わない主義でね。」 笑っていた。そして、その背中が何よりも温かかった。ゼロ様の存在を強く感じさせられる。 だから、茜の心にも悪戯心が芽生えた。 「ゼロ様、大好きです。」 微かに聞こえる程度の独り言、それは確かに澪都の耳にも聞こえた。しかし、運転中に集中力を切らしてはダメだ。安全運転、安全運転。 なのに、バイクのメーターは120kmを越えていたが、スピードが衰える事は無く、ゼロ様はアクセルを全開まで回した。 「いやぁ、温泉にも入って豪華な食事が食べれるなんて、本当に楽園だよねぇ。」 お猪口を片手に浴衣姿の桜姉さんが満足そうに寛いでいた。 「でも、お兄ちゃんや茜ちゃんが来れないのは寂しいなぁ。」 双子の姉、エリも何となく言葉を返す。 「確かにそうですね。澪都さんの料理も恋しいです。」 嬉しい事を言ってくれる春澪、そんな中、澪都と茜の違和感を感じつつある凛が………。 「澪都と茜ならすぐに来るぞ。多分、派手な登場で………。」 その言葉は現実になった。 何かの悲鳴とバイクの音が聞こえたと思ったら、雪野達の前を漆黒のバイクに乗った二人が壁を突き破って登場したのだ。 「えっと………皆さん、こんばんは………で良いのかな?」
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