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だが………。
「ちぃっ!!?」
澪都の渾身の矢は避けられた。次の一手は無い。だが、澪都の役目はそれで十分だった。
「俺の役目は………アンタ等の隙を作る事だからな。」
不敵な笑み、澪都が放った矢は大量の砂埃を撒き散らしダミーの視界を遮った。
それならば、こちらの二人にも影響があると思えるのだが、澪都は全力で力を使ったのだ。ダミーに分かり易い目印を付けるなど造作も無い事である。
「侵掠する事、火の如く!!?」
「イグゼクティブ・ブレイクアンサラー!!?」
渾身の一撃、たった数秒だけ無防備になったダミー、それを全力の一撃で砕く。
………それで終わった。
轟音と閃光の後、砂埃が風で掃われた中から現れた二人の姿は正に威風堂々、その姿は言葉を失う程に美しかった。
………世界も消えた。
澪都は全ての魔力を使い果たした。禁術を何度も使い、生成魔法も使った。
その代償として、澪都の身体は七割程、壊れてしまった。
これを仕掛けたのは誰かと言う思考が働く前に澪都はその場で座り込んでしまった。
限界を超えた者と、立ち止まった者との違い、それを痛感しながらも、馬鹿みたいに笑いが込み上げて来た。
「………何だか、疲れちまったな。」
意識が途絶える。
それから気絶するまでの数分間は身体全体が痛みに包まれていた。
これで争奪戦は終わり、安堵の表情を浮かべながらも、澪都はゆっくり眠ってしまった。
戦いは終わった。
勝者も敗者も現れる事なく。
また、平和な日々が訪れる。
そう、信じたかった。
が、そうならないのが澪都家の住人達である。
戦いは、まだ、終わっていなかった。
「頼むからさ………毎日毎日、宴会をしないでくれ。休んでいる病人を労る気持ちは無いのかよ、アンタ等には………。」
呆れていた。
あの件があってから、澪都は余計に逃げられない状態になったと言うか、拘束されていると言うか、とにかく今は連続宴会の四日目に突入していた。
仁と那々樹の紹介で旅館を教えてもらったのだが、何故か仁と那々樹が経営をしている旅館で好きなだけ宴会をしても構わないと言われたのだ。
他人の言葉に甘える澪都家メンバーは喜んで楽しんでいるが、下心と隠し事があるのは確かだと澪都の勘が告げていた。
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