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雪野の甘い吐息が澪都の鼻孔を燻(くすぶ)る。
「ふっ………ふぅ………。」
二人の吐息が混ざり合う程に接近、それに耐え切れなくなった澪都は無意識に視線を外した。
それでも雪野は澪都の目を見つめてくる。そして、少しずつ近付いて来ているのだ。
そして、唇と唇が触れる直前、澪都は目を閉じた。
………だが、唇には何の感触も無かった。
しかし、数秒開くと左の首筋に湿っぽい感触があった。
「っ!!?」
それに驚き、瞼を開く。
確認しなくても分かっていた。首筋に触れたのは雪野の唇、それによって心臓の鼓動は速まり、血流が良くなって、全身が熱くなる。
雪野が何をしているのかは分かる。
これは悪戯では無い。
これは補食である。蟷螂が紋白蝶を食べているかの如く、雪野の歯が澪都の首筋の皮膚を噛み切り、そこから溢れる深紅の血液を呑んでいる。
過去に一度だけあった吸血、血液には魔力が良く溶け込んでいる。それを飲めば魔力を回復する事が出来る移植法、正に雪野が行っている事そのものだった。
「待っ………て、雪………野………さ………ん。」
意識が朦朧とする。
血液を呑む事で魔力を渡す移植法、これは桜姉が澪都に催促していた事だ。それを体験したのが雪野と春澪なのだが、あの時以来、月一で催促をして来るので困っている。
さらに、澪都は血を吸われているので貧血にもなる。それでも文句の一つも言わないのが今回の事を招いた原因なのではないだろうか?
勿論の事ながら、雪野は吸血を止めない。さらに、何かの魔術を使ったのか、左の首筋から全身に掛けて、快感が澪都を襲って来る。
蚊は人の肌に針を刺したと同時に麻酔を入れると言う………雪野も同じだ。
血を吸いながらも、入れ違いで媚薬を澪都の身体の中に流し込んでいるのだ。
「あっ………あぁ………。」
意識が途切れそうになるのを爪が肌に食い込む程、拳を握り締める事で堪える。
「澪都様………大好き、です………。」
耳元で囁かれる言葉、そして澪都の意識が落ちる瞬間………。
「はぁ~い、そこまででぇ~す。時間切れだよ~ん!?」
誰かの言葉によって澪都はギリギリの所で助けられた。その声の主は分からないが、とにかく今は礼を………。
「レイト、この程度でダウンしてもらっては困ります。私も含め、まだ皆が待っているのですから………。」
言いたくは無かった。
声の主はエレナのようだが、俺一人で全員の相手をしろと?
そりゃ、無理だわな。
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