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「澪都様、私達から逃げるなんてヒドイじゃないですかぁ~!?」
頬を桜色に染めながら、白いバスタオル一枚を身に纏った雪野が近付いてくる。
………逃げられない。
………逃げられないし、流石にここまで来るとどうしようにもない諸事情が発生する。
むしろ、現在進行系で………しかし、雪野達が逃がしてくれる訳でも無く、こうなってしまった場合は。
「まぁ、開き直るのが妥当だな。逃げても追い掛けてくるのは確定だし、逃げられないと決まってるしなぁ。」
諦めるしかない。
………頑張れ、俺。
自問自答と言うか、自己暗示を掛けながら、己の人生を喜んで、後悔した。
それからと言うもの、暫くの間、温泉は賑やかだった。
貸し切りの温泉から見る空は綺麗な星空がある。
こう言う、何気無い旅行者への気遣いは澪都も認める程である。
「星が………綺麗、だな。」
独り言のように呟く。
皆は同じ温泉で産まれた姿に近いのに、澪都の心は皆と掛け離れているような気がした。
充実を感じているのに、全てを見せる事に戸惑いを感じている自分が居る。
心の中にモヤモヤした気持ちを残しながら、瞼を閉じる。
すぐ隣では雪野や凛、春澪や彩子、佳苗の声が聞こえたりするのだが、それだけで十分である。
声さえ聞こえれば………。
隣に居てくれれば………。
姿が見えていれば………。
そして、澪都の存在に気付いてくれさえすれば………。
それだけで満足だった。
それを感じる事が出来るから、澪都は皆の事を大切にする。命に変えても守ると一人、心の中で誓いを立ててある。
「どうしたのだ、澪都?」
気が付くと、隣には頬をうっすらと桜色に染めながら、澪都の顔を覗くように凛の姿があった。
「星が綺麗でさ、少し見入ってたよ。」
純粋な解答、それ以外に答えは無いと感じさせるかのような言葉だった。
「なぁ、澪都。楽しんでいるか………?」
少し心配そうに見つめてくる凛。それに澪都は満面の笑みを返しながら………。
「もちろんだよ。まぁ、状況が状況だけど、息抜きには良いかな?」
こんな状況でも楽しむのが澪都の性格、しかし、楽しんでいる事は事実、皆と遊ぶ機会など無かったので、これはこれでコミュニケーションを計るには最適なんだろうが………。
「ところで、いつまでここに居るんだ?家の事も気になるんだが………。」
澪都の言葉に凛は簡単に返答した。
「あぁ………澪都の家なら壊れてるぞ。」
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