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我ながらプロポーズみたいな言い方で自分自身の顔が赤くなる。
とにかく、今は夜風で冷まさなければ他の奴等に合わせる顔が無い。
「やっと、正直に話してくれましたね?」
春澪の声はすぐ背後にある。
それだけでも澪都の体温は上昇する。本人は認めたくないのだが、上昇してしまうのだから、言い訳も必要無い。
「何故だ?」
「だって、澪都さん………いつも壁があるみたいでした。僕達が居る時は笑っていて、一人の時は凄く寂しそうな表情をして………。」
「一人で笑っている方が不気味だろ?」
話の核心を突いて欲しくないのだ。今は和やかで気さくな人だが、やはり暗殺者時代から抜けない癖もある。
「澪都さん、僕達が居る時に悲しそうな顔は絶対にしませんでした。それは暗殺者時代、喜怒哀楽の怒りと哀しみを欠落させたからではないのですか?あの時も笑っている所を見たのはとても少ない。それは澪都さんが自分の弱い所を見せたくないと壁を作っていたのではないのですか!?」
春澪の推理は的中している。
どんな事が起きても、例え大事な人と死に別れたとしても、哀しみだけは見せたくなかった。
それが暗殺者に於ける絶対的な条件である。
《自身の弱みを見つけられるべからず》
だから、感情を封じ込めていた。
だから、言葉を選び、怒りも哀しみも見せずに喜んで、楽しむ事だけに集中してきた。
でも………。
「じゃあ………その壁を破壊したのは誰かってのも分かるよな?」
振り向いた澪都の瞳は暗殺者の時と同じだった。
瞳の奥は深くて、秘密を隠す為に自身を偽り続けて来た憐れな少年。
人を殺しても、仲間と居ても、春澪と一緒の時も闇を抱えた少年のまま。
どんなに月日が流れても、壁を作り続け、決して崩す事のなかった仮面。
「仮面も壁も………春澪が居たから今の俺が居るんだ。でも、全ての真実を話す為には、まだ信頼出来ない。」
信じては裏切られ、安心すれば襲われ、油断すれば殺される。
そんな世界で生きていた澪都には本来、感情の存在そのものが必要無かった。
だが、それを与えてくれたのが春澪だった。
それは、共感出来る世界で生き続けていたからだ。
ホムンクルスは化け物扱い、幼少も小学の時も忌み嫌われていた。
ホムンクルスは化け物だと、創られた命だと、変に関われば犠牲になるとクラスメートの親にも言われた事がある。
ならば、全ての世の中の秩序を正す為に澪都は暗殺者になったのだ。
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