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それは奇しくも、大粒の雪が舞散る聖なる夜の事だった。
黒いコートで全身をおおい、灰色のフードを被り、武装した男女二人がとある収容所に潜入しようとしていた。
ふたりはメルダガン皇国の政府機関"烈士"の者である。
国を守るのが皇国兵士なら、国が掲げた新しい秩序と平和を守るのが烈士である。
「ねぇ知ってる?大昔だと今日はメリークリスマスって日らしいよ」
「なんだそれは?」
「えーと、確か…好きな人に贈り物をするための記念日だっけ?」
「リノン、今はおとぎ話はやめて作戦に集中するんだ、あれを見ろ」
と言ってグランは降りしきる雪で、頭に積もった雪をどさりと落として中腰の姿勢になった。
「…ふふ、おとぎ話ね」
リノンは雪に埋もれるように伏せながら、ライフルのスコープで収容所の見張り台にいる敵の兵士に照準をあわせた。
「見張りの数は二人だ同時に打て、見張り台と正門の上、お前は見張り台をやれ…合図する…」
「了解」
「今だやれ」
二人はライフルの引き金を引き目標を射撃した。
ただっ広い雪原にあるのは回りを高い塀に囲まれた、コンクリート作りの収容所がある。
「見回りの交代の時間まで30分…ここでブラックスペルを綴(つづ)る少女を拘束しているのは帝国と繋がりがある反社会的な組織だ、聖なる十字架にかけて無実の少女を救出する」
「気が進まないわ、もしブラックスペルが暴発したらどうするのー?」
「わかっているだろ?ブラックスペルに対抗するすべはまだ明らかにされていない、万が一我々に危害が及んだり、皇国民の平和を損なうほどのリスクの許容範囲を越えてしまうような場合は必要なら、少女を殺すしかない…」
ふたりは収容所の東側にまわり、収容所の下水道に向かった。
そこには、人の背の高さと肩幅程度のトンネルがあり、中は暗闇でよく見えないほどだ。
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