第三章 救われきれないもの(3)

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「そんな思考でいるかぎり、例え君がどんなに稼いだとしてもゲームマスターになれるなんて事はありえないよ。」 再び相手はその主張を繰り返す。 「だから、どうしてそんな事がアンタに言えるんだよ!」 健治も再び反発する。 金銭をもってゲームマスターになれると主張する健治。金銭ではゲームマスターになれないとする篠原。お互いの主張は平行線だった。 お互いの主張が根本で相容れない。まるで接点が見いだせない。 ―もういいや。面倒だ。 ふっ、と健治にそんな思いが芽生える。 こいつと語り合えることなど何もない。こんな簡単な話も理解できないような奴に、ましてや俺の理想の世界など理解できるものか。 そう思うと、健治は急に醒めてきた。馬鹿馬鹿しい。ゲームで偶々巡り合った相手に、俺は何をむきになっているんだ。 こんな奴のいう事なんて無視すればいい。頭のおかしい奴はどこにでもいるものだ。相手にするだけ時間の無駄ってものさ。 チャットウィンドウの左下には「終了」のボタンがある。押せば即座にチャットは切断され、それで終わりの筈だ。 お互いに素性がわかっていない以上、健治と篠原を繋いでいるのは今ここにコネクションが張られているLoAのチャットのみである。PCを立ち上げ、このゲームを立ち上げ、更にお互いが相手との会話を望んだ上で繋がる、それだけのラインなのだ。 お互いが相手と話そうと思わない限りは繋がらないライン。健治の側に話す意思はないし、今後生まれることもないだろう。つまり、これを切れば実質的に、二度と相手に会うことはないのだ。 健治はその「終了」のボタンへとカーソルを動かす。 ―バイバイ、篠原。頭のおかしなオッサン。 そう心の中でつぶやきながら接続を切ろうとする直前だった。相手が追加のチャットを打ち込んでくる。 「いいかい、君の言うゲームマスターってのは、つまり経済っていうゲームの管理者なんだ。それはゲームを創りあげる者であり、ゲームクリエーターと言い換えてもいい。」 ―何を当たり前の事を言ってるんだ、こいつは。 健治は虚をつかれる。それはただ単に言葉を言い換えただけじゃないのか?
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