第三章 救われきれないもの(3)

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「世界一のゲーマーが居たとしても、じゃあそいつが世界一のゲームクリエーターかというと、そうじゃないだろう?」 「…」 健治は返す言葉につまる。相手の言葉は確かにその通りだった。 所謂コンピューターゲームの世界で言えばそれは真実だ。LoAが上手い人間が、LoAを作れるかって言うとそうじゃない。 ゲームを作るためにはコンピュータやプログラム、デザインなどの知識が必要で、これはゲームをやりこむだけで身につくものじゃないからだ。 一方で、仮に全部のゲームルールを把握していたとしても知識だけで勝てるほどにLoAは甘くない。ゲームルールを把握した上で、どれだけ手際よくプレイできるかが大事だからだ。 そういう意味で、ゲーマーとゲームマスターは別物である。相手の言葉がはじめてすんなりと受け入れられた気がした。 なるほど、と思わず相手の言葉に乗せられそうになった健治だが、いやいやと慌ててチャットを返す。 「…確かに本物のゲームではそうだけど、それと現実の世界は別だろう?」 『現実』とか『本物』とかの言葉が入り混じり、健治は自分でも訳が分からなくなりそうになる。 「同じさ。経済というゲームでも、君らゲームのプレイヤーと、ゲームマスターのやっている事は全くの別物なんだ。だから君がどんなに稼いだとしても、ゲームマスターになることはできない。ゲーマーの延長線上にゲームマスターはいない。なぜなら住む世界が別だからさ。」 ―?良く分からない。現実にも、経済を上からお膳立てしてる人間が居るって事か? 健治は、相手が何を言おうとしているのか分からず言いよどむ。 「それどころか、ゲーマーが勝つのも負けるのもゲームマスターの思惑次第なのさ。ゲームマスターに嫌われたら、ゲーマーである君は、勝つことすらできなくなる。  なんせゲームマスターってのは、ゲームのルール自体をコントロールしてる人間だからさ。  端的に言うと、君が勝ちそうになったらゲームのルールを変えてしまう。それでおしまいさ。」 ―え? あまりにもあっさりと打ち込まれた言葉に健治は驚く。ゲームのルールを変える? 「わからないかな、君が稼ごうとしてるそのお金っていうのは、ゲームマスターが配ったチップみたいなものなんだ。  チップを誰か一人のゲーマーが独占しようとしたらどうする?ゲームが成り立たないだろ?」
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