第三章 救われきれないもの(3)

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その言葉が健治を驚かせる。 お金があれば何でもできる、お金こそが至上の価値を持っていると思っていた。これがあれば民間だろうが政府だろうが動かせると思っていた。 だが実は、それには何の裏付けもなく、ゲームマスターが配っているものでしかない? 「適当ってのは語弊があるな。一応ルールに則って帳尻は合わせてはいるけどね。ただ、お金ってものは、基本的にゲームマスターがばらまかないと供給されないんだ。そして、税金で回収されていく。」 ―どうやってばらまくんだ? 「ばらまきの元は公務員の給料や公共事業さ。君はこれらが嫌いみたいだが、なければ経済は止まってしまうんだ。なんせお金の供給源がなくなってしまうんだからね。」 じゃあ、一体税金は何故必要なんだ?勝手に発行できるなら、回収なんて要らないんじゃないか?好きに発行すりゃいいんじゃないか? 「では何故税金が必要か。それは価値のコントロールのため、お金をこの世の中から消していくためさ。すべてのお金は消えていくようにできていて、出ていくのはゲームマスターの思いのまま。そうやって通貨の価値をコントロールしてるんだ。」 通貨の価値のコントロール?また聞きなれない言葉が出てくる。 健治は相手のいう事に突っ込みを入れる事もできず、ただ流れてくるチャットの内容をなんとか把握しようと試みることしかできない。 「つまり、価値が下がりそうなら供給量を減らして希少価値を出す。価値が上がりそうなら、供給量を増やしてだぶつかせる。上げるも下げるもゲームマスターの思いのままさ。」 ―ええ? 俄かには信じがたかった。お金の価値なんて、そうそう変わるものじゃないと思っていた。だが実は、その価値自体がゲームマスターによって、好き勝手に決められている? 「君は結局、お金を集めたって何もできない。世の中が全て資本主義で動けるなんて幻想に過ぎない。  君らが奪い合おうとしてるモノなんて所詮その程度のもの。儚くて脆い、プラスティックのチップみたいなものさ。  その裏、ゲームマスターが陰でせっせとチップの価値が変わらない様に細工を重ねてるのさ。ゲームを盛り上げるためにね。」
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