第三章 救われきれないもの(3)

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それでは、自分が今集めているものは何なのか。これまでやってきたことは何だったというのか。 いや、俺だけではない。世の中の多くの人間が、大金を得ることを夢見、お金を得ようと必死に働き、得られず涙を流し、時にはお金のために犯罪まで犯す。 それらの悲喜こもごもが、すべて嘘くさく思えてくる。お金が彼らの配るチップなのだとしたら、俺たちはいったい何のために必死になっている? 「資本主義?笑わせるなよ、何が資本だ。  その資本の価値を保証してるのは誰だ?君がやり取りしてるそのお金というものに、誰が価値をつける?  陰でゲームマスターがお金をばらまき、ある時は回収し、そうやっているからこそチップ、つまりお金の価値が一定に保たれるんだよ。  ゲーマー、つまり民間同士で奪い合いをさせたりしたらあっという間にゲームバランスは崩壊してしまう。  資本主義なんて、裏でそういうゲームマスターの働きがあるからようやく成り立ってるんだ。」 ―俺は彼らの、ゲームマスターの掌の上で踊らされているに過ぎない? 「だから国家予算というのは常に赤字だ。何だかんだと、世の中から税金を回収する理由を作るためにね。  高度成長期に黒字じゃなかった?外国にばらまいたからお金が無くなった?だから政治が愚かだ?  そりゃ君にモノが見えていないだけだ。あれは、すべて意図的に行われた事だ。  あの時期この国は稼ぎ過ぎた。そのまま行くと皆が裕福になり、誰もが働かずに暮らせそうになってしまう心配があった。」 「?」 それのどこが心配なんだ。だが相手はそんな健治の疑問に構わずに続ける。 「だから国内からお金を減らす必要があった。だから外国に、公共事業にお金をばらまいた。そうやって税金を集める名目を作った。」 ―なんでわざわざそんな事をする? 「税金っていうのは、人々からお金を取り上げるために必要だからさ。取り上げないと君ら、つまりゲーマーたちのコントロールができないだろ?」 ―ゲーマーたちをコントロール?
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