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「皆が裕福になっちゃ困るんだよ。それじゃ皆は働かなくなってしまう。
人々に楽をさせない事。身体が動く間は、労働に身を投じさせる事。それがゲームマスターの目的さ。
そのためにゲームマスターは世の中からお金を回収し、一方でばらまく。人々はお金を得ようと一生働き続ける。それが僕らの目指す世界だ。」
―何だ、こいつは。
健治は慄然とした。
最初はネットに良く居る、虚言癖や妄想壁をもった輩だと思っていた。だが、何かが違う。
そんな奴は、適当に喋らせておけばそのうちボロを出す。辻褄の合わないことをしゃべりだし、事実を捏造し、こちらが矛盾に突っ込むとそそくさと退散する。
だが、ここまで聞く限り相手の言葉には矛盾がなさそうに聞こえた。少なくとも間違いを指摘できなかった。健治がこれまでに政治に、経済に感じていた疑問に対してひとつの説明が付けられたように感じたのだ。
では、仮に相手の言っていたことが真実だとして。
―皆が裕福になっちゃ困るんだよ。
健治はそこで初めて相手を怖いと思った。こいつはまるで世間話をするかのように、自分たちが人々を弄んでいると話し、それに悪びれる風もないのだ。
裕福な生活を望まない人間がどこにいるだろう。だがこいつは、あえてそうさせないようにコントロールしているという。幸せを望む人間を叩き落とすと言っているのだ。その理由は、相手を一生労働の枷にはめるため。
世の中に絶対悪というものがいるとしたら、こういう奴の事を言うんだろうか。
「…本気で言ってるのか?」
「本気だし、本当さ。じっくり世の中を見ればいい、歴史を調べてみればいい。僕の言ってたことが本当だと分かるだろうからさ。」
相手を嘘つき呼ばわりしたかった。否定したかった。だが、その言葉が思いつかない。相手の言葉を取り消すための根拠がない。
分からない。相手のいう事は真実なのだろうか。だとしたら、俺が今までやってきたこと、悩み苦悩してきたことは一体なんだったというのか。
無力感と同時に悔しさが湧き上がってくる。俺は、俺たちは、こんな奴に操られて経済という殺し合いのゲームに駆り立てられているのだろうか。
そしてこいつら、篠原の言う『ゲームマスター』は、それをあざ笑いながら眺めているというのだろうか。
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