第三章 救われきれないもの(3)

2/18
前へ
/18ページ
次へ
「は!」 相手のその言葉を聞いた健治は、即座にそれだけをチャットで打ち返した。 ―馬鹿じゃないのかこいつは。俺の話を聞いていなかったのか。 この世の中の経済をコントロールし、人々をコントロールし、良くも悪くも世界を引っ張っていく人間。それがゲームマスターだ。 それは大企業の社長とか省庁の役人とかのレベルじゃない。もっと大きな影響力を持ち、一人の意思で世の中を変えていけるような人間だ。 経団連の会長、総理大臣、そんなものでも生ぬるい。ゲームマスターとはそれらよりもずっと重い。 いまや経済は世界で繋がっているのだから。ゲームマスターとはつまり経済を通じて、この国のみならず世界をコントロールするような人間の事なんだから。 「あのなぁ、ゲームマスターってのはそんな軽々しいもんじゃないんだよ。」 だから健治はそう打ち込む。お前がゲームマスターだって?笑わせるんじゃないよ。 「さっき言ったろ?この世の中のルールを決め、経済をコントロールし、世の中のバランスを保つ。それがゲームマスターだ。  こんな所で俺とゲームしてるようなオッサンができるようなもんじゃないんだよ。」 健治は自分の事を棚に上げた。更には(すでに先ほどからではあるが)完全に相手を年上と決めつけている。普段面と向かった人間には決してぶつけないような言葉だが 、ネット上では遠慮する必要もない。ましてや、こんな不躾な物言いをしてくる人間であるなら尚更だ。 「君の言ってるゲームマスターってのがどんなイメージなのかは知らないけどさ…」 一方、相手はそんな健治の言い様を気にしたふうでもなく、淡々とチャットを返してくる。 「じゃあどんな人間だったら、ゲームマスターにふさわしいんだ?君は、沢山お金を集めりゃゲームマスターになれると思ってるのかい?」 ―うん? 健治は鼻白んだ。改めて言われると困る。ゲームマスターというのは、健治の中で勝手に作り上げたイメージなのだ。 表に見えている政治家や経営者を裏で操る実質的な支配者。経済というルールのマスター。だがそれは、いわば「真の黒幕」みたいなぼんやりとしたイメージであって、具体の姿が分かってる訳じゃない。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加