第三章 救われきれないもの(3)

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健治が今目指しているゲームマスターの姿だって「資本を集めて世界をコントロールする」程度のものだ。資本を集めたその先、具体で何をするか決めている訳ではない。 相手をそうじゃないと断じておきながら、ではどんな人間かと聞かれて答えられないというのは、いかにもかっこ悪い事に思えた。しくじったな、と健治は思う。 それでも、この世の中を動かすのがお金である以上、それを沢山持っていることは絶対の必要条件の筈だ。 「そりゃそうだ、お金が全てさ。それさえあれば、人々を動かすことだって、便利な道具を買うことだって、いろんな資源を押さえることだって思いのままなんだから。」 だからそう返す。決まってるさ、貧乏人のいう事なんて誰も聞きゃしないんだから。世の中を見ればいい。大企業の社長だろうと大物政治家だろうと、人を動かせるのはそこにカネの匂いがあるから、だろ? 「ふーん、お金さえあれば何でも、ねぇ…」 含みのある言い方に健治はむっとする。 大体何なんだこいつは。聞いたばかりの話を、自分は分かった風じゃないか。ゲームマスターってのは俺が言い出したことなのに、何で相手から質問されてるんだ? 健治の心境としては、例えるなら温めてきた小説を、あらすじを話したそばから相手に批判されるようなものである。これは極めて気分が悪い。 「当たり前だろ、お金があるやつが何でもできる。それが資本主義って奴だ。」 今更何を言っているのか、と健治は思う。貧乏な奴が金持ちのいう事を聞くのが、この世界を総べる資本主義っていうルールじゃないか。逆にお金で出来ない事を言ってみろよ。愛か? と、そこまで考えてまた中野亜紀の事が頭をよぎる。 ―確かに、俺は彼女の歓心を得られなかった。確かに、お金では愛を― 頭の中に浮かんだそんな考えをあわてて振り払う。愛が何だって言うんだ、別にそんなものどうだっていい。ゲームマスターにはそんなものは不要なんだ。そう自分に言い聞かせる。
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