第三章 救われきれないもの(3)

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―いや、そもそも理由なんて考える必要もないさ。 健治は思い直す。稼ぐ意味。生きる意味。そんなものに答えが出れば世話はない。 俺は何のために生きているんだろう。誰だって一度や二度はそんなことを自問する、俺だってそうだ。でも結局誰もが答えのないまま、それでも毎日を生きてるんだ。 そう、考えること自体が無駄なことなんだ。 この世界はゲームなんだ。生き残れるかどうかをかけたゲームなんだ。過去には直接殴り合い、殺し合っていたのが今は経済になった、ただそれだけの事さ。 敗者は去り、勝ったやつは次の戦いに身を投じる。そうやって、死ぬまで戦い続ける。 理不尽で残酷なクソゲーだと思う。勝ちを求めたその先に何があるかなんてわからない。でも俺たちは、勝たなきゃ生きていけない。だって負けた先には何もないから。 LoAで「何故自分は勝たないといけないか」なんて考える馬鹿がいるか?考えてる間に相手が攻めてきて、それでゲーム・オーバーさ。 ―こいつ、共産主義者か?それとも宗教かぶれか何かか? 資本主義を否定する奴はまともじゃない。健治の頭の中にはそんな思いがある。 ―はっ、だとしたらとんだ甘ちゃんだな。いい歳をして、どれだけヌルイの世の中を渡ってきたのやら。 健治は思った。共産主義を選んだ国家がどうなった? 皆で手を繋ぎ、抜け駆けをせずに頑張りましょう。そんな言葉を語れば聞こえはいいだろう。誰だって争いの毎日よりは平和で穏やかな毎日が良いからだ。 でも、人間には欲がある。人よりも楽をしたい、人よりも上の立場になりたい、そういうドロドロとした欲望が渦巻いてる。 だから社会主義、共産主義はうまくいかない。人は放っておけば怠け、ズルをし、自分の利益のためだけに動く。権益を作り、汚職に手を染め、あの手この手で人より上に立とうとする。一方ではいかに手を抜き、楽をし、何もせずとも安泰な暮らしを得ようと腐心する。 そして、やがて理想は崩壊する。実際の世界を見ればいい、共産主義を選んだ国のどこに平和や平等がある? 結局、理想論じゃ世界はうまく動かない。皆で仲良くなんて叫んでもうまくいかない。 「じゃあアンタは勝つのを、お金を稼ぐのを辞めちまえよ。自分の稼ぎを全部恵まれない人々に配って回りなよ。それでどうする、世界が良くなるようにお祈りでもするのかい。」
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