第三章 救われきれないもの(3)

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健治は相手に言葉をぶつける。健治がもっとも嫌いなもの、それは偽善を語る人間だった。理想だけを語り、聞こえのいい言葉だけを語る。そうやって人を期待だけさせておきながら何もしない、行動に移さない。いや、それどころか相手の好意を利用して自分だけが得をするのだ。例えば「恵まれない国への寄付」とか言って何割かをピンハネしてしまう奴らのように。この世界に寄生する、全くもってクソみたいな人間。 聞こえのいい嘘を語る人間と、聞こえの悪い真実を語る人間のどちらが悪い?前者に決まってる。でも、世の中の奴らはみんな、聞こえのいい方を信じるんだ。 だったら俺が言ってやる。本当のことを言ってやる。この世界は残酷で、理不尽で、救いがないって事を。 そんな想いで健治は相手に言葉をぶつける。 「アンタがゲームをしているその金で、途上国向けの食料やらワクチンやらが買えるんじゃないのか?あんたの家を売れば、何百何千もの人間が救われるんじゃないのか?」 そう、勝つことを否定するのは偽善でしかない。勝たなくてもいいというなら『便利な暮らしを諦めて、すべてを皆に平等に分けましょう』と言えばいい。 皆が賛同すればそれで終わり、世界は平和になりました、ちゃんちゃん。それでこのふざけたゲームは終わりだ。でも、そんな話には誰も賛同しない。 いや、百歩譲って皆が受け入れれたとしよう。でも、じゃあ、そんな世界で旗を振ることになった人間が、生真面目に平等に分けようと思うか?自分の懐に入れようとするんじゃないのか? 更に百歩譲って、そいつが生真面目に分けるとする。じゃあ、誰がそんな聖人君子みたいな役を引き受ける?ただ平等に分けてもらうのを待ってればいいのに。結果が変わらないなら、誰が好き好んで汗をかこうとするんだ?そんな社会がどうして成立する? 人には欲がある。どんなに綺麗ごとを言ったって、人よりも上に立ちたい、人よりも楽をしたいと思う気持ちは止められない。 だから俺たちは、せめて資本主義の形で資源を分配するしかないんだよ。
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