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「サシャは相変わらず美人だった…」
「イリヤ様…いつまでも人のものを羨ましそうに…諦めの悪い」
はぁ、とオレクが馬首を並べてイリヤを見た。
「人の物だろうが美人は美人だろうが」
「まぁそうですが…」
アストゥールでの締結を終えたその帰り道。
ずっと長い間、長い間というよりも国が国家として成立してからずっと南の地、イン側から見れば北にあたるのだろうが…その地を巡っての争いが終結を迎えた。
今まで誰の時代の時も成し得なかった事だ。
自分の代で南の地を諦めたのか、と歴代の王は言われるのを嫌っただけだろうと思う。たったそれだけで続いてきたのだと…。
それがたった一人の出現で終わってしまったのだ。
オレクに話を聞き、のちに兵達をつかまえその地に降り立った時のサシャは確かに戦いの女神が降り立ったかのような印象を受けたのだろうと思う。
皮肉な事にイリヤは捕えられていたし、サシャの伴侶のリウ・ロウは生死を彷徨っていたらしく目にしていないのだが…。
それなのに本人はただ愛しい男の無事を願って来ただけだと言う。
そんなにも強く想われるのはどんな気持ちなのだろうか…。
イリヤには分からない。
ウルファの第四王子として生を受けて何不自由なく育ったと思う。
…いや、自由があるかないかという意味では自由がない事が不自由だが、飲まず食わずで生を全うできない者もいる事に比べれば恵まれた環境だといえる。
贅を尽くすにはあまり関心はないけれど、知識や剣技など自分から望まなくとも教え込まれた。王子という立場ゆえに。
だが自分の上に兄が三人もいて自分が王位に立つわけではない。
立ちたいのかと問われれば否、なのだが…それをそう捉えられない事も多い。
はっきりいってイリヤは権力などどうでもいい。生まれた時から第四王子という身上でしかもイリヤの母は身分の低い侍女上がりの母だったから勿論王位などはなから望む事もなかった。
与えられた教育も剣技もイリヤが進んで受け入れたのは母親の身分が低くて母親が馬鹿にされない為に、ただそれだけだった。
それなのに…。
「…オレク…寄り道をしないか? 」
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