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イリヤは仕方なく故国ウルファの王宮に向かって馬を進めていた。それは国の重鎮の行軍ではなく簡単な軍の旅装でだった。馬車になど揺られる位なら馬に乗って風を感じられた方がいいに決まっている。
…そう思うのは王子達の中でイリヤだけだろうが。
なので、付き従う者も皆イリヤの部下でもある軍の者達ばかりでイン国の様につらつらと馬車を並べて、という事はなかった。侍従を連れて歩いているわけでもなく、イリヤも野営の際には水酌みにも自ら行く位だ。
そういった飾らない所も軍の者には慕われているという自覚はある。
それが自分なのだから自分を飾っても仕方がないのだがそれがまた兄達にしてみれば面白くないらしい。
とどのところ、イリヤが何をしても兄王達の気に障る、という事だ。
そして一番嫌われる要素はイリヤが父王に一番似ている所だった。
髪は白金、瞳は濃い蒼。凍てつく湖の底のような色の瞳だ。そして父もまた剣を自ら使い武の者でもある。
兄達の母は過去にも何度か王妃を出したり、または王女が嫁したりした名家で、王家の血筋が濃いはずなのに何故かイリヤに色濃く父の血が出たのだ。
それもまた気に入られない要素なのだろうが。
とにもかくにも、イリヤの存在そのものが兄達には目障りなのだ。
第四王子でよかった、と心底思う。そうでなかったらきっとイリヤはきっと幼い内に命を絶たれていたかも、と冗談でもない事を思ってしまう。
とりあえず王位継承権は王妃の第一王子から順に下がってくるので間違いなくイリヤに王位が転がり込んでくる事はないのだ。
「イリヤ王子、今日の宿はいかがいたしますか?急いで次の町に?それとも野営に?」
「ああ…野営でいい。野営で。食料はまだあるだろう?」
「はい。あります」
「…まったく…ご自分が早く帰りたくないから…」
ぼそりとオレクが呟いている。
家族持ちのオレクは早くに帰途につきたいのだろう。
「だからお前は来なくていいって言ったのに。今回の旅は独り者で急いで帰らなくともいいものを集めたんだ」
「…本当に、そういう所は周到ですな」
オレクが呆れている。
ここはまだアストゥールインとウルファの三国の隣接する国境近くの山間だ。
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