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さっき部下の兵が言ったように急げばウルファの領地の小さな町に入って宿に泊まれるのにイリヤは少しでもウルファに入るのを遅らせたくてアストゥールでの一泊を選んだ。
こんな事をしても無駄だという事は自分でも分かっているのだが、とイリヤは苦笑しながら開けた場所を見つけ野営の準備をさせた。
ここは来る時も野営をした場所で泉もあり水にも困らないのだ。
「俺が水を汲んでこよう」
イリヤと部下何人かで泉に向かおうと山道を降りていく。
「イリヤ王子! 」
「どうした…? 」
泉近くに子供が一人倒れていて兵が声をかけていた所だった。
「…行き倒れか…? 」
イリヤも駆け寄ると子供に手をかけ息があるのを確かめてから声をかける。
「おい? 意識はあるか…? 」
「ん…おなか…すいた…」
消えそうな声で呟いた言葉はおなかすいただっだ。
「はっ! なんで子供が一人こんな所に一人で…そりゃ腹も減るだろう! おい、私はこの子供を連れて天幕に戻るから水は頼むぞ? 」
「イリヤ王子…子供とはいえ見ず知らずの者を…」
「いい。気にするな」
もしこんな子供に殺されるならそれはそれで運命でいいだろう、とイリヤはひょいと荷物を担ぐように力のない子供の体を子供を肩に乗せた。
「イリヤ様!? 」
水を持たない代わりに子供を担いで戻ってきたイリヤにオレクが怪訝そうに声をかけた。
「腹減りの行き倒れの子供らしい。俺の天幕に連れて行く」
「え!? ちょっと!? イリヤ様! 」
天幕とはいっても簡易の天幕でかろうじて空間があって仕切られているという位のもので、防寒は風除けにはならない位の薄いものだ。
広さは三人位は入れるだろうか…。なので子供一人入れた位は問題ない。
「おい、子供…干し肉をやろう。夕飯の準備はまだ出来てないからそれまでは我慢しろ」
「…ありがとう…ございます」
「ほら、水も」
竹筒で出来た水筒も渡してやると子供は固い干し肉を噛みながら水もごくごくと飲んでいる。
黒髪の見た目は15歳位だろうか…。体も細っこくて剣なんか扱えそうにない。
「何してたんだ? こんな所に一人で? 」
むぐむぐと咽そうになる子供に慌てるなと背中を叩いてやる。
さてこれはどんな子なのだろうか?
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