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「あったんです! きっとイリヤ王子がお忘れなだけで! だから俺お礼がしたくて…俺、小さかったけど…覚えてる。キラキラに輝く髪のお兄ちゃんが助けてくれたって…。親からイリヤ王子様だよ、って聞いてずっとお礼がしたくて…」
「ああ? 別に礼とかいいし」
「よくないですっ! したいの! 」
「じゃ何をしてくれるんだ? 」
「……何を…って…言われると…」
命を守りたい。…そのためにキリルは自分を危ない目に晒しながらもここまでやっと来たんだ。イリヤ王子に邪険にされても諦める気はない。
「とにかく! 役に立ちますから! 傍に置いてください」
「……どう役に立ってくれるんだ? 」
…と言われても…。
剣でも、と言いたいが残念ながらイリヤ王子は剣術は突出してるからキリルよりも腕は上だと思うし…とにかく特殊な環境にいたキリルは役に立つはず。
…だが、それはイリヤ王子には決して言えない。
「ま、いいや。面白そうだしな。ただしウルファの王宮までだぞ? ここでお前一人放り出してもウルファまでまた行き倒れになられちゃ目覚めが悪いからな…」
イリヤ王子が白金の髪を揺らして笑った。
「ありがとうございますっ! 」
やった、とキリルは満面の笑みを浮べた。
「黒髪にそばかすねぇ…」
イリヤ王子が呻っている。助けたという記憶を探っているのかもしれないが、正解はさっきイリヤ王子が言った赤毛の女の子だ。
今は髪を染めて黒にしてるから…。なにしろ赤毛は目立ちすぎる。
「やっぱり記憶にないような…」
「イリヤ王子は忘れちゃったんだ…俺はずっとイリヤ王子に…ってそればっかり考えて…大人になって、親もいなくなって…それが支えだったのに…」
「あ、悪い悪い! 」
キリルがわざと目を潤ませるとイリヤ王子が慌てる。
「そこまで思ってもらうのも…まぁ悪くはないな…」
イリヤ王子が少しだけ照れたように笑ったのがキリルの目に優しく映った。
ちゃんと覚えておこう。イリヤ王子を。キリルはいつどうなるかわからないから…いざという時にはイリヤ王子の身代わりでもいい。
イリヤ王子を助けられるなら…。
気をつけなければならないのはイリヤ王子を巻き込む事だ。
だからちゃんと…傍にいられる間にイリヤ王子の姿を瞼に焼き付けておこう。
白金の髪のキリルだけの王子様だ。
…キリルの中では…。
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