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イリヤ王子がキリルの事をしばらく傍に置くから、と言えば警護の兵もオレク様もいい顔をしなかった。
勿論そうだとキリルだって思う。
どこの馬の骨とも知らない者と思われれば当然だ。イリヤ王子の身を狙う者の可能性だって疑われても仕方ない。
「また王子はそんな事を…」
「こんな子供だぞ? 何が出来る? ああ…子供じゃないんだっけか? 18って言ったな? でも腕なんか見てみろ? 俺の半分もない位の細腕でこれで長剣なんて振り回せないだろう? 」
「…人を殺めるのに長剣だけが能ではありませんよ? 」
「そうだけど。こんなそばかすだらけの子がまさか! 」
……そばかすは関係ないと思う、とキリルが貰ったスープのお椀を持ったままむぅっと口を尖らせた。
「あ、悪い」
そのキリルに気付いてイリヤ王子がちょっと慌てながら謝っている。
「キリルといったか? 」
「はい」
オレク様に声をかけられてキリルは背筋を伸ばした。
ぴりっとした緊張感が焚き火を囲んだ兵の中にも漂う。
「本当の目的は? 」
「…本当の目的? 」
キリルはきょとんとして目を大きく丸めなるべく子供っぽい表情になるように気をつけた。
「ええと…イリヤ王子にも言いましたけど、小さい頃に助けていただいたから…そりゃ…俺じゃ何も役に立つなんて事ないかも…ですけど…」
しゅんとキリルが肩を落とすと兵の中にも同情的な雰囲気を漂わせる者もいた。
「オレク。俺がいいって言ったんだからいいんだ。命を狙われ、こんな子供にしてやられるようならそれはそれで別に構わない」
「構わないはずないでしょう!? イリヤ王子?子 供といえども油断はならないのですぞ? 」
キリルは俯けた顔でオレク様の意見に賛成だ、と思う。
「でも! あの…俺は本当に…イリヤ王子に助けてもらったから…あの…信用ならないと思われたらいつでも俺…斬られてもいいですから…。どうせもう親もいないし…俺…帰る所もないし…」
「オレク」
イリヤ王子が嗜めるように声を上げた。
「人の同情を誘うのも芝居かもしれない」
「ちがう! 本当に…俺はイリヤ王子を…」
助けたくて来たんだ。わざわざここまで!
だが、それを言ったらかえってキリルの身もイリヤ王子の身も危険になってしまう。今でも十分危ないのに…。
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