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イリヤ王子がたとえキリルを見なくとも、もうキリルの事などどうでもよくてもキリルのすべてはイリヤ王子の為だけにあるのだから計画を変更する気はさらさらない。
ないけれど…今これを目の前で見せ付けられればキリルの心が血を流しそうに傷ついている。
見たくない。逃げたい。助けて。
「イリヤ王子…」
エフィムのイリヤ王子を呼ぶ甘い声もイリヤ王子のエフィムを呼ぶ声も聞きたくはない。
こんな醜い気持ちになるなんて。
キリルは口を押さえて泣きたい気持ちを抑えた。
「やめてくださいっ!」
びしっとしたエフィムの声とそして微かに響いたぱん、という乾いた音にキリルは視線を思わず二人に向けた。
カウチに寝そべるイリヤ王子の頬の辺りにエフィムの手が宙に浮いていた。
「ひどい!」
「……」
エフィムがイリヤ王子を責める口調で声を大きく罵った。
「僕はイリヤ王子の事をお慕いしてます。けれど! ただあてつけの為だけにだなんて…僕だってプライドがある。ちっぽけですけれど! 自分が高慢なのも分かっていますけど! それでも…っ!」
「……すまない…エフィム…行っていい…」
イリヤ王子が小さく謝っていた。
「失礼します!」
今まで仲睦まじそうにしていたのにエフィムが怒ってイリヤ王子から離れ大股に部屋を横切ると扉横にじっと佇んでいたキリルをぎりっと睨んだ。
「バカにするな!」
涙を浮かべてエフィムはキリルに吐き出し、そしてドアを開けて部屋を出て行ってしまった。
何がどうした…?
でも…エフィムはいなくなって部屋にはイリヤ王子とキリルだけだ。
しんとした空間。
でも…キリルは喜んでしまった。エフィムがいなくなった事に。
自分の顔を手で覆い涙が零れた顔を隠した。
泣いた事などなかったのに…。どうして…?
だってキリルはもういなくなるつもりなのに。それなのにどうして…イリヤ王子の事を思えばエフィムがこの先信じられる相手とイリヤ王子が思ってくれればそれでいいはずだったのに…。
どうしてこんなにキリルの心は苦しいのか…。
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