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そして彼もわかっているはずだ
無駄な期待をしていることを
2人はわかっているはずだ
こんなことをしてもただ虚しいことを
だから____
「黒髪の……あなたを見たい
一度でいい、もう一度だけ
私に本当のあなたに踏み込ませて欲しい」
誉はわかっていた
それがどれだけ時雨にとって嫌なのか
「……っ、ダメです」
「なぜです?あの日……1度だけ見せてくれましたよね」
あの日___兄に襲われた日
「あ、あれは……」
「あの時のあなたは酷く乱れていた
そうなればまた、見られるのですか」
ショックのあまりに、誉さんに泣きついた。
この気持ちを消して欲しかった
「やめて下さいよ」
髪に手を掛けた誉の手を止めた
「いいえ、やめません」
誉さんは力任せに僕の背を押した。
倒れるには十分な力だった。
「いつも思うのですが……
こうしている時雨君、いつもの時雨君と雰囲気が全く違いますよね」
「煽情的?」
「はい、そんな感じです」
あの人にも言われたよ、同じこと
『愛や恋は穢れには値しない
わかるね』
わかってるさ
こんなのただの寂しさの穴を埋めたいだけだって
穢れには値しないことだってわかってる
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