海斗の正体

6/16
257人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
そして彼もわかっているはずだ 無駄な期待をしていることを 2人はわかっているはずだ こんなことをしてもただ虚しいことを だから____ 「黒髪の……あなたを見たい 一度でいい、もう一度だけ 私に本当のあなたに踏み込ませて欲しい」 誉はわかっていた それがどれだけ時雨にとって嫌なのか 「……っ、ダメです」 「なぜです?あの日……1度だけ見せてくれましたよね」 あの日___兄に襲われた日 「あ、あれは……」 「あの時のあなたは酷く乱れていた そうなればまた、見られるのですか」 ショックのあまりに、誉さんに泣きついた。 この気持ちを消して欲しかった 「やめて下さいよ」 髪に手を掛けた誉の手を止めた 「いいえ、やめません」 誉さんは力任せに僕の背を押した。 倒れるには十分な力だった。 「いつも思うのですが…… こうしている時雨君、いつもの時雨君と雰囲気が全く違いますよね」 「煽情的?」 「はい、そんな感じです」 あの人にも言われたよ、同じこと 『愛や恋は穢れには値しない わかるね』 わかってるさ こんなのただの寂しさの穴を埋めたいだけだって 穢れには値しないことだってわかってる
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!