プロローグ

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僕がちゃんとしていれば、こんなことにはならなかったのかな 「駿河さん……なぜ置いていくの……」 「……」 なにも言えなかった ただ、微笑んで手を握ってあげることしかできなかった それでもこれは、涼子にとって何よりの嬉しい出来事だった 「笑って、くれた…それだけで私……」 ごめんなさい。 と最後に彼女は言って眠りについた 薬で強制的に眠ったが、彼女の寝顔はとても穏やかだった 周りの看護師は顔を紅潮させて時雨を見つめている あのままにして置いても眠るには変わり無かったが、それでも少しは夢を見させてあげたかった。 僕のエゴかな 今の彼女を見てもまだ思うのは父である駿河を愛し続けていること。 あなたが愛した人は、僕の憎むべき人 あなたを壊した人 それなのにまだ思い続けるんですね 僕は恋が、とても怖い。 眠った涼子を残して担当医の所へ向かった 「先生、これ今月分です。 遅くなってすみません あ、これ3万円」 さっき副会長に貰った金がそのままポケットに入っていたのを思い出し、茶封筒と一緒に手渡した 先生は中身を確認し、眉間にシワを寄せた 「またこんな……15万円なんて高校生がバイトして稼げる金額じゃないだろう」 「父から送られてくるんですよ」 笑って答えた 本当は嘘だ 父さんは僕を溺愛してくれている。 だが、再婚した涼子さんとその息子の兄のことは虫けらのようにしか思っていなかった。 だから暮らしていけるくらいの金と、 ほんの少しの兄、母への金しか送ってこない。 僕を特別視してるからといって、大金を与えると涼子さん達へ与えるのを知っているからだ。 でも僕は涼子さんの入院費を払い続けている。 父が仕送りしてくる金じゃ足りないから 自分で稼いでいた。 バイトをするよりも、もっと効率的なやり方で。 僕は穢れなくちゃいけない いつからだっけ、こう思うようになったのは 穢れた金だから涼子さんへの罪を償える 誰だっけ、こう教えたのは 「そう……か」先生はこれ以上なにも聞いてこなかった。
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