プロローグ

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青年はカチャカチャと音を立てて シュルッとベルトを引き抜く それを見ていた時雨は上半身を起こし 「口でしてあげる」 そう言って副会長のチャックに手をかけた その瞬間だった 抱いて抱いて抱いてセニョリータ♪ 強く強く強く離さないで~♪ なんとも言えない音楽が静かな保健室に響き渡った 「……あー、電話です」 時雨は無表情に音がなり続ける端末を見つめた 「この曲は……なんて歌を着メロにしているのですか…」 副会長は頭を抱えた 鳴ったのは枕の横に置いてあった時雨のケータイだった。 表示された文字は 『第一病院』 「……」 見馴れた文字の羅列だった 「どうしました?時雨君」 「すみません。誉さん 今日はここまでで……。 金はいいんで」 「いいえ。いけません 貰ってください」 副会長は財布から3万円取り出して時雨の手に握らせた 「誉さん……」 「そんな悲しそうな顔をしないで下さい、私なら大丈夫です それより、時雨のことが大切なんです 他の誰かよりも、自分を頼ってほしい」 "頼ってほしい" その意味を深く理解している 「ごめんなさい。 前にも言いましたけど、 辞めるわけにはいかない」 副会長にだけ負担はかけられない。 優しい副会長。 でも……あなたにも限界がきてることを知ってた 「時雨待っ……っ……」 止める声を後に 「それじゃあ、また今度」 そう言って脱ぎ捨てた制服を手に保健室を出た そして未だに振動しながら鳴るケータイを押した。 「はい、もしもし」 『月神さんですか!?実はまた……!』 わかっていた まただって 「はい。はい……今行きます」
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