プロローグ

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「違う……違う……駿河さんじゃない…っ…」 僕の顔をゆっくり見上げてから 目を逸らしてそう言った 「薬を投与しましたのでもうじき寝るかと思われます」 背の小さい看護師の一人が僕に近寄って言った そう……。 また、薬を…… 「……」 窓の外を見上げて何かに問いかけるようにブツブツ断片的なことを言っている。 そんな姿を見て感じるのは、 哀しさと罪悪感だった 「見て……ない……忘れ……駿河さ……」 駿河……。 やっぱりまだその人を…… 「…………すー、はー。」 ひといきつき、暴れる涼子にそっと近寄り 目までかかった銀色の髪を―――外した。 「……ぁ」 近くに居た看護師も息を飲み、 魅了されるほどの美しさが 銀色の下には隠れていた。 「涼子」 黒い深海のような艶やかな髪をかきあげ、名を呼んだ、 これは父の癖だったからだ。 「駿河……さん…?」 さっきまで泣き叫んでいたのが嘘のように、その人が本来持っていた美しさが表に出てきた。 涼子が微笑み時雨を見つめる姿はまるで絵の中に描かれた童話に出てくるお姫様のようだった。 「そうだよ。涼子」 背中をさすりな背中を擦りながら優しい声音で話す 僕は父さんに似ている 自分でも嫌になるくらい それと同時に、母さんにも似ている 父はあることをきっかけに涼子を見捨てた ごめんね、涼子さん。 僕のせいだよね
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