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ぼ那の交戦、男の肩から鮮血が吹く、ボスの日本刀が男の肩を斬った。かろうじて急所は外したが、傷は深く、男のナイフは届かなかった。完全な武器の長さの違いだ。たたっ斬ることを目的として作られた日本刀は振り下ろすだけでも相当な威力を放つ。
ボスは勝ったと確信した。ナイフを持つほうの腕を斬った、もうナイフは振るえまい、その油断が彼の命を奪う。
パンッと銃声が響いた。ボスの心臓の辺りに赤い膜が広がり吐血する。視界の隅に小さな、子供のような女ガイタ。ミリアラとボスが言う。
「『勝利を確信した瞬間こそ、いちばんの隙になる。どんな強者だろうと一日中、気を貼り付けてはいられない。もしも強者と戦うことになれば、隙をついて確実な一撃を叩き込め』父親の言葉だ」
ボスが捨てた拳銃をミリアナが構えながら言った。彼女はボスの部下だ。この男を内部に引き入れることも、こっそり隙を窺うことも容易だった。
ボスが倒れる、こんな男でもあっさりと死ぬ。そういう世界だ。ミリアナは斬りつけられ出血に苦しむ男を背負うと窓から飛び出す寸前にボスの部屋にあるボタンを押した。
ミリアナと男がボスの屋敷を脱出した、五分後、屋敷がひとりでに燃え始めた。あの屋敷は使い捨てだ。もしも警察の介入があった場合、不慮の事故を装って証拠隠滅をはかる。屋敷のあちこちにそういったトラップが仕掛けてある。ミリアナはそれを利用、確実にボスとその部下を殺したのだ。
街は騒然としていた。ボスが死んだのだ。突然の不審火で部下もろとも焼け死んだ。酒場の店主はラジオから流れるアナウンサーの声を聞きなから目の前の二人、まるで親子ような二人にお酒とジュースを差し出した。子供のほうが酒をよこせと叫ぶが、親がゴンと頭を殴る。右肩を怪我しているの包帯が巻かれていた。見ていてとても痛々しい口には出さなかった。
「なにするんだよ。お前の治療してやったのは誰と思ってんだ」
「それには礼を言う。しかし、子供は酒を呑むな」
「もう大人だってーの」
「子供はすぐにそう言う。ジュースで我慢しろ」
その昔、親子のような二人の暗殺者がいた。彼らは街から街に渡り歩き、あちこちの悪を殺したという、しかし、その記録はいっさい残っていない。煙のように消え、霧のように謎に包まれいつかは人々からも忘れられていくだろう。
けれども、世界は平和だった。
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