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自分の命すら危ない。仮に金をいくら積まれようとも情報を売るきにはなれないあしびの街に住んでいれば誰だって理解する。ボスは人じゃあない、魔物なのだ。
「そうか、わかった、あんたも命はおしかろう、無理を言ってすまない」
と男は粘ることなく、あっさりと引き下がった。店主も安堵してホッと一息ついた。代金を置いて出て行く男の後ろ姿を眺めながら店主は口を開いた。
「あんた、ボスとどんな関係なんだい?」
「殺すべき相手だ。この世界を平和にするためにな」
とだけ答えると男は酒場を出て行く。もしもここに他の客がいたらどっと笑いが巻き起こっただろう。
平和、協調、平穏、そんな言葉は自分の身も守れない生ぬるい連中が作り出した戯れ言だ。妄言だ。この世界に必要なのはナイフを握れる強さと、人を殺すための勇気だけ、甘ったるい言葉なんてゴミ箱に捨てるか、かーちゃんの体内に残しておくべきだ。バーカと、かといって店主は男を笑うこともできず、ただ、見送るだけだった。
『人を殺すことに動機はいらねぇー、必要なのは相手を確実に殺すための度胸と手段だけだ』
彼女、ミリアナがそう習ったのは彼女がまだ三歳の時だった。彼女の父親はまだ、幼い彼女にナイフを握らせて、口癖のように言っていた。
ミリアナはジッと耐え忍んでいた。遠くから足音が聞こえてくる。おそらく荷物を抱えているのだろう。足音と一緒に物がこすれる音がする。ミリアナは内心で標的を定め、そして集中する。隙間からそっと視線をむければ、案の定、大荷物を抱えたフードの男がこちらにやってくる。おそらく旅人、訳も分からずにこの街に入ってきた哀れなペットだ。
かといってここで焦ってはいけない、焦りは最初の一撃を狂わせる。重要なのは相手を確実に殺すための一撃。
酒場から出た男は、情報収集のために街を歩いていた、どんよりとした空気が男に吹き付ける。血と女の匂いがする。この街もそうなのかと、嘆かずにはいられなかった。どうして、この世界は平和にならないんだと、天を仰いでみても何も変わらない、男が道端に置かれた真新しいスーツケースを通り過ぎようとしたとき、いきなりパンッと蓋が開けられ、中なら小柄な少女が飛び出してきた。
小柄な少女こと、ミリアナはナイフを構え、男を狙う、まずは足だ。足を狙って足場を崩す、よろけたところにトドメの一撃を叩き込む。はずだった。
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