第1章

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 こいつは、私の古い友人が聞かせてくれた話です。決して私の経験じゃありませんし、仮にそうだとしても、私が罪に問われることはありません。  大学最後の夏休みを利用して、皆でクルージングに出掛けた際の話です。もちろん、私は参加していません。彼らは男女6人で青空の下、小さな船に乗って、空が反射したような色の海を堪能しながら、互いの将来について語り合っていたそうです。  私は船酔いするタチなんで、聞いているだけで気分が悪くなりましたが、彼らはきっと酔わないんでしょうね。皆で楽しく談笑していました。そんな折、船が故障、また間が悪いことに、海のど真ん中で立ち往生する羽目になりました。  こういう時って、意外に男性は頼りにならないそうです。メンバーの中で、いつもリーダーシップを発揮していたという女性が、無線機を使って、海上警察に助けを依頼しました。  幸い、無線機は壊れていなかったようで、無事に通信は成功したようですが、照りつける太陽の元で、一体何時間待てば良いのか、彼らはとても不安だったそうです。  一時間、二時間と経過しても、状況は変わりません。上を見ても、下を見ても青一色。閉所恐怖というのは理解できますが、こういうだだっ広い空間も、ずっと過ごしていると嫌気が差してくるものです。  一人の色白の男性が、乾き切った唇で、「喉が渇いた」なんて連呼するもんだから、周りの友人達も心配して、彼にペットボトルの水を渡してあげました。彼は嬉しそうにグビグビとそれを飲み干すと、信じられないことに、それは1リットルも入っていたのです。この非常時に、貴重な水を一気に1リットル飲む奴なんて、私は知りませんし、友人になりたいかと聞かれたら、黙って首を横に振ります。  色白の男性は周りの仲間達から責められました。しかし彼は澄ました顔で、仲間達の絶望した顔を順番に見ながら言い放ったそうです。 「僕に水を渡したのが悪いんだ。正直言って、喉はそこまで乾いていなかったが、念のために水分を補給しておいた」  こんな言葉を吐かれて、怒らない人などこの世にいるでしょうか。
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