第1章

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 メンバーの内、気性の荒いことで知られていた男は、彼の胸倉を掴み殴りました。そして、彼を殺すのではないかという勢いで彼に馬乗りになり、さらなる制裁を加えようとしたらしいのですが、流石に周りの人間から止められて、彼を放してやったそうです。  さらに数時間経ちました。夕暮れ時になり、太陽が沈み掛けています。夜になれば気温も少しは下がるでしょう。彼らはいくらか元気を取り戻しましたが、色白の男性のことは許しませんでした。  船の上には食料も無いので、今夜中に助けが来なかった場合は、かなり厳しい状況となるでしょう。皆が床の上に寝そべって、空を見ていました。恐らく、人生の中でこんなにも空を見ることはこの先無いでしょう。それほどまでに、同じ場所ばかり、虚ろな目で見ていたのです。  腹が減ると、聴覚がやたら鋭敏になります。暗くてあまり見えませんが、誰かの咀嚼音が聞こえてきます。皆が音に釣られて立ち上がると、猿のごとく、食べ物のある方向に一斉に向かいました。すると、見覚えのある弱々しい小さな背中が見えたのです。  彼でした。色白の彼が、コンビニやスーパーで買うような、ツナの缶詰を必死に食べてるのです。恐ろしいことに、水を飲み干したばかりか、食料まで独り占めにしていた彼を、もう誰も許そうとは思いません。その瞬間、彼らは最も人としてしてはならないことをしました。  次の日の早朝、海上警察が彼らを救助しに現れました。船の上は真っ赤な血で彩られていましたが、中にいた5人はとても元気そうでした。それは一日放置された人の顔ではありません。栄養も睡眠も十分に取った者の姿です。  しかし変ですよね。水も無い。食料も無い。あるのはそれらを独り占めにした人間一人だけ。この状況で、彼らはどうやって栄養を補給できたのでしょうかね。私には怖くて、これ以上は説明できません。
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