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「ばーか、違うわっ! いや、だからって亨さんが倒れたことを喜んでるわけでもないぞ? ただ最近ちょっとうまく話せてなかったんで、この機会にじっくり話ができてよかったなって話」
「へぇ?」
どことなく納得しきれないような顔で田中は言い、けれどそれ以上は追求しなかった。
「まぁいいや。おまえの落ち込んだ顔は心臓に悪いからな、笑える気になったんならそれでいい」
「えーと、心配させてた、か? 悪い」
落ち込んだ理由は何も聞かず、ただ黙って横にいてくれる存在というのは本当に得難いと思う。
何も言わずに見守るだけなんて、田中はやっぱり田中だな。
ところがそうやって軽く感動していたら、いきなり田中が大きな手を広げて俺に抱きついてきたから、俺は心底驚いて固まってしまった。
「そう思うんなら、もっと俺に頼って相談とかしろよ。おまえはいっつも、黙ってひとりで抱え込む。寂しいんだぞ、俺は」
俺より上背のある田中に、俺はすっぽり包み込まれてしまった。
肩に、腰に、顔に、胸に、田中の存在を嫌というほど感じる。
男の匂いに頭がくらくらして膝の力が抜けそうだ。
言葉が右から左へ通り抜ける。
え、寂しいとか言ったか、今?
「佑斗。俺な、おまえは気づいてないだろうけど、前からずっとおまえのこと……佑斗?」
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