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呼吸困難に陥り、全身を硬直させて冷や汗を掻いている俺に、田中がようやく気づいた。
「おい、どうした?」
田中が腕の力を緩めたので、俺はとっさに田中の二の腕を掴んで自分から引き剥がした。
叫び出したい衝動を抑える限界ぎりぎりだった。
あと数秒遅かったら、パニックになって喚き散らしていたかもしれない。
下を向いて大きく喘ぎ、必死に呼吸を整える。
ようやく少し落ち着いて顔を上げたら、田中がじっと俺を見つめていた。
「そんなに嫌か? あの坂本ってやつと、同じくらいに?」
それは怒っているというよりも、どこか傷ついたような口調だった。
「ち……」
違う、と言おうとしたら、喉の奥から咳が込み上げてきて言葉を続けられなくなった。
田中が手を差し出しかけて、躊躇って、結局下ろす。
「違うんだ、田中。そうじゃない。おまえが嫌とかそういう以前に、俺の問題なんだ」
「佑斗の問題、って?」
「俺の、ていうか、俺の昔の……父親のせい」
「父親って、おばさんの再婚相手の? おまえを殴ったり蹴ったりしてた、あの?」
「いや、そっちじゃなくて、もうひとりの方」
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