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もうひとり、と聞いて田中は首を傾げた。
意味がわからない、という顔だ。
「あいつのせいで俺は今でも、あのくらいの年齢の男に触れられたりすると、自分でもどうにもできないくらい怖くなって、だから、おまえのことが嫌だとか、そんな話じゃなくて、」
とぎれとぎれに何とか説明しようと試みる俺を、田中は不思議そうな目で見ている。
「優しそうな人だったじゃん? 休みの日に遊園地連れてってくれたり。運動会にも来てたよな」
そうなんだ、表面上はとても優しくて子煩悩な父親だった。
だから初めは母も俺も、それに騙された。
「あいつは……その、子供が、少年が好きで、その、好きっていうのは何ていうか、普通に大人が子供を好きっていう意味じゃなくて、変、態……っていうか、それで、普段は優しい父親なんだけど、ふたりだけになるとあいつは俺に……」
田中を傷つけたくなんてない、でも自分の傷を曝け出すほど俺は強くもない。
肝心なことをオブラートに包んだまま、ニュアンスだけ伝えようとすると、言葉はどうしても訥々としてしまう。
「もういい!」
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