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「くっそう、そうか。そういうことだったのかよ。なんで俺、気づいてやれなかったんだ、チクショウ。いい親父さんでよかったな、なんて脳天気なこと、ええいっ、くそっ!」
田中は本気で悔しそうに、吐き捨てるようにそう言った。
「佑斗、何で俺に言わなかった?」
そうやって心から俺のために怒ってくれる、そんなおまえと友達でよかったよ。
照れくさいから、それを伝えるのはまた今度にするけど。
「ありがとう」
田中は驚いたように目を丸くして、それから照れくさそうに横を向いて頭を掻いた。
「おまえはそうやって、いっつも肝心なことは俺に言わないで笑って仕舞いこんじまうのな。黙っててもわかることと、黙ってたらわからないことがあるんだぞ?」
そうかも知れない。
でも、それでも誰にも言えなかったんだ、あの頃の俺は。
こうやってきっかけが何であれ、例えほんの少しでも人に話せるようになったのは多分亨さんのおかげ。
自分は悪くない、何も恥じることはないと、亨さんが教えてくれたから。
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