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「つまり、少しずつ良くなってきてるってことだろ。苦手なはずの若い男で、しかも義理の父親とひとつ屋根の下で暮らせるばかりか、けっこう仲も良さそうじゃん。いい傾向だ」
えーと、ちょっと違うんだけどな。
俺にとって亨さんは、確かに戸籍上は義理の父親だけど、そんな風に意識したのは母が亡くなってしばらくまでのことで、あの夜以降は・・・。
そこまで考えてふいに、あの夜のことが思い出された。
初めて亨さんに告白された時のこと。
立ち去ろうとする亨さんを必死で引き止め、自分の思いを伝えた時のこと。
初めてかわした、口づけのこと。
「佑斗、どうした? また苦しくなってきたのか? 顔が赤いぞ」
「何でもない! 大丈夫だ!」
「けど」
「ホント、大丈夫だって!」
田中の前だというのにひとりで赤面して、こんなの絶対変に思われるに決まってる。
俺は顔の前でひらひら手を振って笑い、何とかその場を誤魔化そうとした。
「そろそろ部屋に戻るよ。届けてくれてサンキュ。おばさんたちにもよろしく」
「何か用があって出てきたんじゃないのか?」
「ちょっと外の空気吸いに来ただけだから。亨さんが心配するといけないし、じゃな!」
まだ何か言いたそうな田中だったが、俺の顔を見て苦笑すると、仕方ないなと肩を竦めて手を振った。
俺も軽く手を振り、駆け足にならないぎりぎりの早足でエントランスに飛び込んだ。
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