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「あの、え、それって、亨さん、あの、あの」
金魚のように口をパクパクさせて意味のない単語を繰り返す俺を、亨さんは可笑しそうに眺めて笑った。
「言っただろ、俺、そんなに我慢強い方じゃないんだよ」
それからゴシゴシと、グーで強く鼻の頭を擦る。
「前に酒の話をした時のこと覚えてるかな。最初は一杯だけと思っていても、大抵は誘惑に負けて止められなくなる。一度堰を切ってしまうと、自分の意志の力でそれを途中で切り上げるのはとても難しいことなんだ」
「覚えてる。だから絶対に、家でも外でも飲んじゃダメだって」
「そう。それと一緒。だからあれは、自分に言い聞かせてた部分もあるんだ。もし俺が一度でも佑斗に触れたら、それがほんの一瞬であったとしても、もう自分で自分を止められなくなる。間違いなく」
「でも触れるくらい、今までだって何度も…」
と言いかけたら亨さんの指が伸びてきて、そっと俺の唇に触れた。
「こんな風に?」
何故だろう、その指はとても艶かしく思えた。
目も怖いくらいに真剣で、いつもの亨さんじゃないみたいだ。
「佑斗、俺が言ってるのは、そういう意味じゃないよ?」
指は唇を離れ頬から顎を伝って首筋に、開いた襟から覗く鎖骨に触れる。
触れるか離れるかギリギリのところでそっと撫でられ、俺はぞわりと体中の毛が逆立ったような気がした。
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