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来賓玄関での記帳も「プライベートだから」とスルーさせてもらい、江梨は事務室内の簡易応接セットに案内された。
「――改めまして。」
名刺を受け取りながら、江梨はすっかり大人しくなって、万葉にペコリと頭を下げる。
「コーヒーと紅茶、どちらになさいます?」
「……じゃあ、紅茶を。」
「少々、お待ち下さい。」
そう言って部屋の隅のポットの前まで行くと、万葉はインスタントのコーヒーと紅茶のティーバッグを手にする。
江梨は興味津々で辺りをキョロキョロと見回した。
――スチール製のロッカー。
――同じくスチール製のOAチェア。
建物は新しそうなのに、経費削減のためなのか、置かれている器具はどことなく年代ものに見える。
「お待たせしました。」
机に置かれたのはコーヒーと紅茶が一杯ずつだ。
「ありがとう。」
「いえ。」
落ち着かなさに江梨はティースプーンを手にすると、スティックシュガーを半分ほど入れて、ぐるりと中身をひと混ぜする。
水面が大きく揺らぐ。
その間に万葉は静かに向かいのソファーに座っていた。
「『私に会いたい』と仰ってましたけど……。」
「……ええ。貴俊から話に聞いて、会ってみたかったの。」
江梨はティースプーンを置くと、バツが悪そうな顔をする。
「でも、『本人を目の前に失礼しちゃう』って話よね……、本当にごめんなさい。」
しょんぼりとしながら江梨が謝るから、万葉は首を横に振った。
「いいえ、お気になさらないで下さい。私もなかなか名乗らず失礼しました。」
そう言って柔和な笑顔のままでコーヒーを手にすると、万葉は一口、口に含んでゆっくりと飲み下した。
――熱い。
舌先がヒリヒリする。
それでも万葉は胸の内の騒めきを何とかしたくて躍起になっていた。
久保は自分に良い印象をもはや持っていないだろう。
そして、それを聞いた江梨が言いたい事も察しがつく。
万葉はソーサーにカップを置くと、痺れる舌先のままで江梨に問い掛けた。
「……それで、久保さんは何て?」
「え?」
「――私の事をお聞きになったと伺ったので。」
「……あ、ああ。具体的には聞いてないのよ。ただ『理事長の娘さんと結婚する』って言うのと、それが『ビジネスライクな話』だと聞かされたの。」
江梨は紅茶のカップを置くと深呼吸をする。
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