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 万葉はゆっくりと目を閉じると、込み上げてくる溜飲を何とか飲み込んだ。  ――久保が自分を選ぶ事は決してないだろう。  たとえ亜希が他の男を選んでも。  たとえ彼自身を忘れてしまっているとしても。  ――彼は彼女を求め続ける。  そして、それは自分も一緒で、どんなに冷たい仕打ちを受けても、彼に恋い焦がれ続ける。  ――それが、罰。  愛する者を傷付けて、自らの「モノ」にしようとした代償だ。 「万葉ちゃんは、貴俊の事が好きなの?」  江梨の言葉に万葉はゆっくりと目を開けると、苦笑いを浮かべた。 「――さあ? もう私にも分からないんですよね。彼が好きなのか、憎いのか……。」  ただ、どうしようもなく、久保の事ばかりを考えてしまう。  ――朝も、夕も。  ――寝ても、覚めても。  彼の姿を知らず知らずに目で追ってしまう。  ――憎らしいほどに愛おしい。  その想いは、心の内に日に日に堆積していく。 「何度も諦めようとしたんですけど、気が付けば久保さんの事を考えてしまうんです。」  恋に落ちるのはいつだって突然で、落とし穴にはまるみたいに、それと気付くのはいつだって首っ丈になった後だ。  しかも、浅いのか、深いのかも、はまってみないと分からないときている。  ――本当に、厄介。  いっそ亜希のように彼を忘れられたら、楽になれるのだろうか。  ――否。  亜希と同じか、それ以上に恋に狂うに違いない。 「――久保さんは私をきっと許さないでしょうね。」  たとえ一緒になっても、彼の心には亜希が住み続けるに違いない。 「それでも止められない想いって事?」  江梨が問い掛けると、万葉はこくりと頷く。 「始めは父の方が熱心だったんですけど、ね。」 「お父様って……理事長の?」 「ええ。父は久保さんの経営センスを気に入ったんです。的確な指摘をしてくる久保さんを是非とも理事会に引き込みたいって。」  しかし、年若い久保を推挙するには理事会は旧態然としているから、理事長である父は無い知恵を捻り出したのだ。
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